中国のミニブログ「微博(Weibo)」で、36歳になるデータベース管理者が投稿した悲痛な書き込みが、多くのITエンジニアの間で共感された。今回の記事は、変化の激しい中国ITに携わって直面した問題をつづったこの文章を紹介したい。
上海でデータベース管理者(DBA)をやっている。妻と娘がいる。36歳になるまで仕事は順調だったと思っている。働いている企業は小さく、人間関係もうまくいっている。中国の中でもプログラマーの所得が高いことは知られているが、DBAはその上流工程なので所得もいい。“BAT”こと百度(Baidu)、阿里巴巴(Alibaba)、騰訊(Tencent)ほどはすごくはないが十分だ。不動産の価格が毎年高くなる上海で、早めに家を買えて家族がいることは幸運だった。
だが、この2年間で状況は変わった。技術の発展が急激になったことは、大きなストレスになっている。さらにこの半年はひどくなっている。
半年前、騰訊の「Tencent Cloud」の営業が会社にやってきて、クラウド化のソリューションを提示してきた。実際、そのデータベースのスペックについては私たちを満足させるものだった。コストは阿里巴巴の「Alibaba Cloud」の同ソリューションよりもかなり安価を提示してきている。無料で使えるツールも、私たちの会社が自前で作ったものよりよほどいい。それでも私はDBAのトップとして強く反対した。
その時に討論したのは、データセキュリティの点や、新たにデータベースを設計するリスクなどだ。学校を卒業して1年半の若い社員からは、「Tencent Cloudを活用するということは、騰訊派の企業になれるということですよ」などと言われた。実際、うちの会社みたいな中型企業が騰訊に属することができるなら嬉しいことだが、私は苦笑した。
この苦笑を見て、みんな真意が分かったんだ。私の仕事がなくなるから反対するのだと。
正直妥協はできない。36歳で2人の子どもを養わなくてはならない。3つのDBAグループの長を勤めている。つまり彼らの食い扶持も確保しなければならない。
Oracleのデータベースに10年以上携わってきたが、DBAの仕事がなくなるなどという脅威は、これまで基本的になかった。しかし、騰訊が来てから半年間でものすごくストレスがたまった。ときに私自身の精神が崩壊したような感覚になった。よくいうのが、子どもが出来てから男性は成熟するというが、2人の子どもがいて、大きなプレッシャーを受けるようになった。その理由は、子どもというよりもむしろこの数年で中国企業のクラウド化の発展がとても進んでいることで、自分の仕事がなくなってしまうという感覚を受けるようになったからだ。
仕事は新技術によって替えられるとはよく言うことだけれど、プログラマーに至るとは思いもよらなかった。Amazon Web Services(AWS)でも、Alibaba Cloudでも、Tencent Cloudでも、導入することによってデータベースの管理ツールやメンテナンスが基本不要になってしまった。技術力を要したDBAの本来の作業がなくなり、ひいてはスタッフが不要になってしまう。クラウド化を実現すれば、DBAは大幅にカットして2人いれば十分なのが現実だ。
これまでDBAのスペシャリストとして、家族に割ける時間も十分でないまま、これまで仕事にまい進してきたのは何だったのか。クラウドが私たちの仕事をなくしにきている。ならば今年、私はBATに再就職できるというのか。1995年生まれの若い人たちと一緒に競争して、まだ私が勝てる見込みはあるというのか。
ときどきAWSやAlibaba CloudやTencent Cloudを恨む。後10年は食い扶持に困らなかったのに、中年の危機に早くも直面している。私は新しい技術が好きで追求してきたのに、新技術と対立している自分がいる。家に帰っては酒を飲んで家族が見てないところで泣くこともある。もう以前の栄光はなく、家族も養えない。
- 山谷剛史(やまや・たけし)
- フリーランスライター
- 2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。