山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国の中年プログラマーはどこにいくのか--30代でリストラの動きも

山谷剛史

2019-11-25 07:00

 日本には「プログラマー35歳定年説」という言葉がある。プログラミング技術は進歩が激しく、プログラマーは新しい技術に対して常に習得していかなければならず、ときに陳腐化してしまった技術を捨て去らなければならない。また納期が近づくと徹夜続きとなることもあり、体力が必要になってくる。年功序列がベースとなる賃金体系において、ある程度の年齢になったプログラマーを企業はコストが高いと考え、採用する企業が減る。その境目が35歳くらいなのでこの言葉があるのだが、近年では40歳、あるいはそれ以上の年齢をボーダーラインとする定年説も提唱されている。新説はおおむね35歳を超えるものであり、日本のプログラマーの限界ラインは上がる傾向にあるのかもしれない。

 お隣の中国はどうだろうか。

 一般に中国は変化の激しい国だと言われるが、加えて毎年さまざまなネットサービスが現れ、既存のサービスも新しくなっていく。むしろインターネットトレンドが変わっていくと言っていい。近年では一気にクラウド化が進み、ミニアプリ(ミニプログラム)が普及するなど、プラットフォームも変わっていく。企業向けのサービスでもビジネスを効率化するさまざまなスタートアップ企業が誕生し、絶えず変化が起きている。

 中国には2000年代生まれの「00后」、1990年代生まれの「90后」といった言葉で世代をくくりがちだが、1970年代生まれ(70后)どころか1980年代生まれ(80后)のプログラマーもリストラの対象となる。つまり30歳にして早くもプログラマーは失職の危機を迎えるわけだ。中国のネット企業は活力にあふれるとか、深センは若者が多いとか言われるが、1980年代生まれすらリストラの対象とするならさもありなんだ。30代になれば早くもリストラという中、若ければ若いほど「上司が話を聞いてくれない」「気分が悪い」といった理由で辞め、30代以降になると再就職試験でことごとく断られるという話をよく聞くようになる。

 経験年数やスキルに応じて、新人のときの月収と数年選手・10年選手では数倍もの開きがある。例えば、求人サイトの拉勾網(Lagou.com)が発表した「2019年90後程序員職場報告」というレポートによれば、プログラマーの入社時の平均月収は9500元だが、1~3年目で1万2800元、3~5年目で1万9600元、5~10年目で2万9100元となる。中でも北京、上海、杭州、深センの所得はとりわけ高い(それに比例するように就職難易度は高くなる)。収入面を考えつつ会社にしがみつこうとするのもうなずける。

 どうにも日本よりも早くプログラマーの定年を迎えそうな中国で、経験を積んだ中年プログラマーはどこに向かうのだろうか。その中では日本同様に上級職、管理職に転職する人もいる。また長くプログラマーとしてやっていきたいがために、研究開発系の職場でプログラマーとなることもあると聞くが多くはないようだ。

 一方、起業するという話をよく聞く。起業の話を日常的に聞く中国では、プログラマーも例外ではなく、業界での経験や技術経験を武器に新しく事業を起こす。ビッグデータ・人工知能(AI)・モノのインターネット(IoT)・第5世代移動体通信システム(5G)などさまざまなITトレンドが話題になっては、そのトレンドに対応した多数の企業が各地で誕生する。またトレンドの1つとして中国は今、IT教育に力を入れている。小中高大いずれの学校にもプログラムの授業が導入されつつある(大学ではその大学就職に応じた学歴を要する)。プログラミング教室の開校ラッシュの中、そこにぶら下がる手もある。ブラック勤務も辞さない開発現場とは対照的に時間のコントロールができるので特に女性プログラマーの転職先として人気だとか。

 30代から既に中国のプログラマーにとっては厳しい環境であり、当時IT産業に憧れた若者は既にリストラの危機を迎えているが、それを拾う受け皿も社会環境としてできているのだ。また新しいネットトレンドやITトレンドに対し、多数の企業が誕生する背景には、こうした人々の存在があるとも言える。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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