ZDNet/TechRepublic編集部新春放談

第5回:自治体のデジタル化に残る課題と懸念

阿久津良和

2020-01-15 07:00

 2020年が明けた。朝日インタラクティブが運営する「ZDNet Japan(ZD)」では大企業のIT部門を中心に、「TechRepublic Japan(TR)」では中堅中小企業のIT部門と大企業の非IT部門を中心に、それぞれの読者がITの活用において議論すべき話題を日々提供している。そこで2020年の新春企画として2つの編集部が意見を出し合い、2019年を振り返りつつ、2020年は何を議論すべきなのかをまとめた。参加したのは以下の通り。


ZDNet Japan編集部:國谷武史(編集長)、藤本和彦、大場みのり、海外記事担当(以下、海担)
TechRepublic Japan編集部:田中好伸(編集長、ZD副編集長を兼務)、河部恭紀、藤代格

自治体のデジタル化は継続できるか

ZD大場:2019年の事象として自治体におけるデジタル変革(DX)が気になりました。自治体は機密情報を扱うこともあり、これまでDXに慎重な傾向がありました。

 ですが2019年、横浜市役所がNTTデータの「WinActor」を試験的に導入し、結果として平均84.9%の削減効果がみられたといいます。SAP Concurの日本法人も経費精算や請求書管理、出張管理サービスを公共機関に1年間無償提供する取り組みをしています。ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクも、自治体専用のネットワーク「LGWAN」を利用したビジネスチャットツールの無料トライアルを実施しています。

 トラストバンクの会見には、同ツールをトライアル導入した自治体の職員の方々も登壇。職員の方が「多くの職員がプライベートで『LINE』を使っている分、RPAよりもスムーズに導入できた」と語っていました。われわれは普段「Slack」を使っているので、DXと言うとRPA(ロボティックプロセスオートメーション)が真っ先に思い浮かびますが、ビジネスチャットツールを導入していない所は、そこから始めるべきだと気付きました。

 自治体がDXに取り組む背景として、職員数の減少があるそうです。人口減少により税収が減ったことから、自治体の職員数は過去24年間で約55万人減少しました。特に地方では、少子高齢化に伴う福祉業務サービスの増加により、職員が1人4~5役を担わなければいけない状況だといいます。そのため自治体のDXは、一過性のブームではなく継続することが重要だと思います。

 一方、同会見で職員の方が「RPAは使いこなすのが大変」と述べていたことも印象に残っています。ITに強い職員ばかりではないはずなので、今後はより使いやすいものをシステムインテグレーター(SIer)の方々に作ってほしいと感じます。

 2019年はPoC(概念実証)や無償提供の事例が多かったので、2020年は明確になった課題を基に本提供や改善につなげていくのではないかと予想しています。

ZD國谷:行政の仕事は定型業務も多く、その部分にはRPAは適用しやすいでしょう。ただ、政策が変化して業務内容も変わってしまえば、せっかく適用したPRAの効果が失われてしまいかねません。そのバランス感覚は難しく、民間企業なら全社的な戦略を立てやすいのですが、行政は政策変更の影響を受けやすいことが課題だといった話をよく耳にします。

 RPAだけでも導入して理想的に活用し続けるにはさまざまな障壁があり、さらに、DXという観点になれば、自治体そのもののあり方を変えるだけに、テクノロジーの積極的な活用が本質的に難しいかもしれません。そこは自治体の首長がリードすべきなのか、あるいは市民がその方針を提示した人を選挙で選ぶべきなのか、実に難しい問題です。

 

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