2019年10月、Microsoftは米国防総省の防衛基盤統合事業「JEDI」(Joint Enterprise Defense Infrastructure)の契約を獲得した。その契約規模は100億ドル(約1兆1000億円)とされている。この10年契約は、米国防総省が進めている、ITインフラをモダナイズ、統合するための大きな取り組みの一部だ。米国防総省のITインフラの多くは、まだ1980年代や1990年代の技術を基盤にしている。
Microsoftを選択するという決定が大きな驚きを持って迎えられたのは、Amazon Web Services(AWS)が契約を勝ち取る可能性が高いと予想されていたためだ。その背景には、AWSが2013年に米中央情報局(CIA)から6億ドル規模のクラウドサービス導入事業を獲得していたことや、同社がクラウドインフラのグローバル市場で優位に立っていたことなどがある。現時点では、AWSは影響レベル6(機密文書を取り扱う能力があることを認めるもの)の完全な認証を受けている唯一の企業だが、「Microsoft Azure」も2019年12月に影響レベル6の90日間の暫定認証を取得したと報じられており、AWSに追いつきつつある。
Azureの契約獲得は政治の影響にとどまらない
現在AWSは、国防総省の判断はDonald Trump米大統領の干渉と偏見によって歪められたと主張している。Amazonの最高経営責任者(CEO)Jeff Bezos氏は、Trump大統領を声高に批判し続けているThe Washington Postのオーナーでもあり、大統領がBezos氏にあからさまに敵意を見せているためだ。Amazonの主張には説得力があるものの、Microsoftを選択するという判断にもまったく根拠がないわけではない。Microsoftは今回の決定に至るまでの数年間に、JEDIを獲得しても不思議ではないと思わせる、いくつかの重要な動きを見せている。
- Oracleとのパートナーシップ締結。JEDIの入札では直接的な競合関係にあったにも関わらず(OracleはJEDIの入札に参加しており、現在も独自に訴訟を起こしている)、Oracleとパートナーシップを結んだことは、既存の市場シェアを守るための動きにも見えたが、実際には先見の明がある巧妙な一手だった。JEDIでシングルベンダーアプローチが取られた主な理由は、オンプレミスに存在するレガシーなデータベースを再設計するには多額の資金が必要になるためであり、その多くはOracleのソフトウェアを使って構築されている。Microsoftは、Oracleと提携したことで2つの環境の間に直接的なリンクを確立することが可能になり、ユーザーがハイブリッド環境(オンプレミスはOracle、クラウドはAzure)でアプリケーションを実行する際の柔軟性が高まった。例えば、オンプレミスでは「Oracle Database」を使い続けながら、関係するアプリケーションやウェブコンポーネントをAzureのクラウド上で実行できるようになるため、移行プロセスが容易になるといった効果が得られる。