NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は4月22日、2020年度の事業戦略説明会を開催した。代表取締役社長の庄司哲也氏は、2025年に予定される固定電話網(PSTN)からIP網への移行によって従来の事業構造が大きく変わることから、新たなモデルの構築が急がれると語った。
2020年度の事業戦略を説明したNTTコミュニケーションズ 代表取締役社長の庄司哲也氏
PSTNからIP網への移行は、地域会社のNTT東西が中心となり、2024~2025年に行われる。これによって長年続いた距離別の通話料金区分が撤廃され、全国一律になる。市外通話事業を所管するNTT Comの収益も大幅に減少するという。さらに、個人向けISP市場の回線数も2018年度の約3908万回線から2023年度には3330万回線に減少すると予想(富士キメラ総研の分析)され、市場全体が今後縮退していくという。
PSTNからIP網への移行で収益構造が大きく変わるという(出典:NTTコミュニケーションズ)
庄司氏によれば、市外通話やOCNなどのISP事業の収益は、2012年度から2024年度の間に60%減少するという。このため近年は、クラウド関連サービスやデータ活用などの法人向け事業へのシフトを進めており、2020年度の事業戦略では(1)Smart Data Platformの拡充、(2)ソリューション提供能力の強化、(3)新規事業の創出ーーの3つを掲げている。
(1)のSmart Data Platform(SDPF)は、データ活用のためのアプリケーションやネットワーク、ソフトウェア、管理、セキュリティなどの機能を提供するもので、2019年9月に提供を開始した。庄司氏は、特にネットワークに関して大企業の約8割がマルチクラウドを利用しており、従来の事業拠点間の接続から複数のクラウドサービス同士やデータセンター同士を接続する「ネットワークデータセンター」という概念に変化しているとした。
ネットワークデータセンターについては既に首都圏で整備を推進しており、2020年度は関西圏でも整備していく。ソフトウェア制御でセキュアな閉域ネットワークを柔軟に構築、運用できるFlexible InterConnectを強化するほか、主にIoTの点からネットワーク接続デバイスでの通信設定を容易にする「eSIM」サービスの提供や、SD-WANを利用したセキュアな「ゼロトラストネットワーク」の推進、局所的に5G(第5世代移動体通信)の大容量や多接続などの特徴を生かす「ローカル5G」にも注力する。また、SFPFでのデータ活用や共有におけるセキュリティやプライバシーの機能を提供する「DATA Trust」も展開する。
Flexible InterConnectのイメージ(出典:NTTコミュニケーションズ)
SFPFの新規アプリケーションでは、人工知能(AI)エンジン「COTOHA」を用いた自動文章要約サービス「COTOHA Summarize」や、ウェブサイト上での顧客の行動履歴データをコンタクトセンターで活用して顧客満足度や顧客体験の向上を図る「CX Platform」、社員証や入館証などを電子化してモバイルアプリケーションで活用したり、管理の負担やコストを削減したりできるようにする「Smart Me(仮称)」を新たに提供する。
CX Platformのイメージ(出典:NTTコミュニケーションズ)
(2)では、工場・都市・教育・健康医療・働き方・モバイル・顧客体験の7つの領域を設定。各領域で順次「推進室」体制を構築するとともに、NTTグループ企業やパートナー企業らとのエコシステムを通じて、ビジネスの変革に取り組むという。
3月には都市(スマートシティー)の領域で、NTTグループとトヨタ自動車の資本・業務提供が発表されたほか、NTT Comでも複数社と調達業務を最適化する「デジタルマッチングプラットフォーム」に取り組む。「特に加工が必要な部品の受発注の最適化を目指しており、DATA Trustでデータの安全を確保しつつ、データから部品調達での最適な発注先を仲介する。オープンな基盤として活用すべく概念実証を進めている」(庄司氏)という。
「デジタルマッチングプラットフォーム」の構想(出典:NTTコミュニケーションズ)
(3)では、新規事業のアイデアを募る「オープンイノベーションプログラム」を実施し、200以上の構想が寄せられているという。ビジネスイノベーションハブの「C4 BASE」も推進し、従来の事業の枠にとらわれない事業モデルを実現させていくとした。