パナソニック、IoTカメラやAI技術の応用で介護向け新サービスを展開

大河原克行

2020-07-14 06:00

 パナソニックは7月13日、IoTやAI(人工知能)などのデジタル技術を活用した介護施設向けの新サービス「ライフレンズ」を発表した。同社が2016年から提供する介護施設向けの「みまもり安心サービス」を進化させ、同社独自のエッジコンピューティングカメラ「Vieureka」やAI技術、シート型センサーを活用することで、介護施設の運営負担の軽減と入居者のQOL(Quality of Life)向上を実現するという。

「ライフレンズ」サービスの概要(出典:パナソニック)
「ライフレンズ」サービスの概要(出典:パナソニック)

 同社は、HITOWAケアサービスが運営する有料老人ホーム「イリーゼ練馬中村橋」で実証実験を行った結果、夜間の巡視業務において、91%の業務時間削減を達成したという。同社ではこの成果をもとに、ライフレンズを他の介護施設事業者にも展開し、2025年度には100億円の事業を目指す。また、HITOWAケアサービスも8月までに660室への導入を計画している。

 従来の「みまもり安心サービス」では、IoT対応エアコンによる温度設定情報や、電波センサーを活用して睡眠および安否情報を確認することで、入居者の活動状況や睡眠リズムを24時間見守るほか、居室内での熱中症対策などにも活用していた。

 パナソニック テクノロジー本部事業開発室スマートエイジングケアプロジェクト 総括担当の山岡勝氏は、「安否確認や睡眠リズムの把握、空調管理といった点では成果があったが、2018年に開始したイリーゼ練馬中村橋での実証実験では、夜間巡視の改善というテーマに取り組んだ。夜間巡視は、業務の大変さだけでなく、さまざまな疾患や性格を持った入居者を、スタッフ1人で見るという精神的ストレスが大きく、夜勤に就く人も少ない。みまもり安心サービスでは43%の業務削減ができたが、電波センサーだけでは、訪室しないと分からない入居者がおり、一定数の訪室作業が残ってしまう。さらに改善したいというHITOWAケアサービスの強い要求があり、それを突き詰めた結果、今回のライフレンズが生まれた」と説明する。

 ライフレンズでは、スリープエース製のシート型センサーと、パナソニックのVieurekaカメラを新たに使用することで、訪室しなくては把握できなかった状況をリアルタイムに遠隔から確認できるという。

シート型センサーをベッドに設置した様子(左)。遠隔で各部屋の様子を知ることができる
シート型センサーをベッドに設置した様子(左)。遠隔で各部屋の様子を知ることができる

 具体的には、シート型センサーをベッドに装着し、入居者のベッド上の動きや拍動、呼吸による微細体動を検知、安否の確認やベッドからの離床、睡眠などの生活リズムを把握する。またVieurekaカメラは、本体にAIによるデータ処理機能を搭載している。入居者の状態を映像で把握するほか、今後はディープラーニングなどの高度な画像解析技術を活用して、利用者の状況を細かく把握するという。

 イリーゼ練馬中村橋の実証実験では、業務効率化とともに、入居者の睡眠時間の確保といった成果にもつながっているという。「ライフレンズの名称は、凸レンズのように焦点を絞り、入居者の詳細までを見定めること、時には凹レンズを組み合わせて、目に見えない星まで見えるように、長期間にわたって、入居者の体や心の状態も把握するという意味から名付けた。高齢者のQoLを高めるとともに、介護業務の効率化も図ることができるソリューションになる。次世代の介護施設業務の確立を目指したい」(山岡氏)としている。

 価格は初期導入費用が20万円以下、月額3000円を予定している。

 HITOWAケアサービス 代表取締役社長の袴田義輝氏は、「団塊世代が後期高齢者となり始め、2025年には75歳以上が(人口の)17.8%を占めることになる。また、要介護認定者が2040年までに60%増える。ここに向けていかに準備をしていくかが、介護事業者の課題となっている。労働力が減少し、人材不足となる一方、介護現場が疲弊しているが、顧客のニーズはますます高まっている」とした。

 その上で、「介護業務の中で見守りは負荷が高くストレスになっている。夜間の定期巡視は2時間に1回で、この結果、被介護者を起こしてしまって被介護者が活性化してしまい、寝られなくなったり、ストレスをかけてしまったりする問題も発生していた。ライフレンズによって、スタッフの巡視工数が削減され、ストレスをかけることもなくなる。IoTやロボットでできることは、それらに任せ、空いた時間は、人でしかできないことに力を注ぐ。ヒトの価値を最大化した介護現場の実現につなげたい」(袴田氏)と述べた。

パナソニック テクノロジー本部事業開発室スマートエイジングケアプロジェクト 総括担当の山岡勝氏(左)と、HITOWAケアサービス 代表取締役社長の袴田義輝氏
パナソニック テクノロジー本部事業開発室スマートエイジングケアプロジェクト 総括担当の山岡勝氏(左)と、HITOWAケアサービス 代表取締役社長の袴田義輝氏

 なお、パナソニックでは日本医療研究開発機構の「ロボット介護機器・標準化事業」における「介護記録・センサー/ロボットのパッケージ化による介護業務支援システムに関する研究開発の支援」により、自立支援に向けたモニタリング・業務支援を実証中で、ライフレンズも、その1つのツールとして活用することになるという。

 「他社の機器から発信される介護記録やセンサーデータ、バイタル測定データ、ナースコール情報などと組み合わせて、介護業務プラットフォームにデータを蓄積することになる。ライフレンズのデータから、高齢者の異変を確認したり、将来の重症化につながったりしないかといった予測型モデルも提供できる。既に心不全になることが、ライフレンズのデータから予測できることが分かっている」(山岡氏)などとしている。

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