2010年を思い出そう。OracleのLarry Ellison氏はクラウドを依然として「ただの戯言」と見なしていたかもしれない。「クラウドは他人のコンピューターに過ぎない」と主張する一派もいた。しかし、先見の明ある人々もいた。NASA Ames Research CenterとRackspaceは、クラウドを構築する最善の方法はオープンソースソフトウェア(OSS)を使うことだと結論を下し、「OpenStack」を生み出した。
当時、既にAmazon Web Services(AWS)のルーツである「Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)」は存在し、2010年初めにはMicrosoftも「Microsoft Azure」(当時はWindows Azure)を発表していた。これらのシステムではLinuxをはじめとするオープンソースプログラムも実行されていたが、これらは所有者の存在するプロプライエタリーなプラットフォームだった。Amesチームは、NASAがコンピューティング資源やデータ資源を独自の環境でホスティングし、管理することを望んでいた。
そこでAmesは「Nebula」を構築した。IaaS(Infrastructure as a Service)クラウドの先駆けだ。しかし、Red Hatの製品戦略担当シニアディレクターであるBrian Gracely氏が指摘したように、「NASAにはシステム全体を構築し、長期的に保守していくだけの人員がいなかった」。そこでAmesはオープンソースの道を選んだ。最初の重要コンポーネントとなった「Nova」は今もOpenStackに使われている。しかし、当時の状況を知る開発者の言葉を借りれば、それは「バグだらけのベータ版だが、リリースしたから試してみてくれ」という程度のものだった。
そして、その2カ月後、RackspaceとNASAのチームは共同でOpenStackの最初のバージョンを発表した。
数年のうちにOpenStackの人気は爆発した。HP、IBM、Red Hat、VMwareなど、そうそうたるテクノロジー企業がこぞってOpenStackへの支持を表明した。当時、Rackspaceの戦略・企業開発担当シニアバイスプレジデントだったJim Curry氏は次のように説明する。「2つのことが同時に起きた。まず、クラウドテクノロジーとそのフォームファクターが変曲点に達した。そして数年後、AWSがメインストリームへと移行し、人々はオープンソースの選択肢というより、AWSの代替品を探すようになった」
OpenStackは、AWSの代替品をはるかに超えるものへと進化した。現在のOpenStackには8000人を超えるプログラマーが参加し、32のプロジェクトが進行している。例えば、クラウドプロビジョニングシステムの「Airship」、コンテナーのような軽量さを備えた仮想マシン(VM)の「Kata Containers」、エッジインフラソフトウェアスタックの「StarlingX」、Netflixのネットワーキングゲートウェイである「Zuul」など、多様なクラウドや関連サービスもあれば、単一のネットワーク上でベアメタル、VM、コンテナー資源を統合できるAPIもある。現在のOpenStackは、高性能コンピューティング(HPC)や人工知能(AI)、機械学習のような用途にさえ対応できる。
誕生以来、OpenStackは最初のAustinから最新のUssuriまで、21回にわたってスケジュール通りのリリースを重ねてきた。451 Researchの試算では、OpenStackの市場規模は2023年には77億ドルに達するという。成長をけん引するのはアジア(36%)、ラテンアメリカ(27%)、欧州(22%)、北米(17%)だ。
OpenStackの人気は通信事業者の間でも高まっており、AT&TやBTは5G(第5世代移動体通信)システムの基盤にOpenStackを採用している。
それだけではない。OpenStackは、プライベート、ハイブリッド、パブリックの全てにおいて、最も人気の高いオープンソースのクラウド基盤であり続けている。SUSEなど、初期の支持者の一部はOpenStackを離れたが、Red Hatのような忠実な支持者も存在する。Red Hatはまもなく最新のOpenStackリリース「Red Hat OpenStack Platform 16.1」を公開予定だ。支持者はRed Hatだけではないことを考えると、OpenStackの未来は今後も明るい。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。