2020年のクラウドコンピューティングはより成熟し、マルチクラウド化が進むとともに、主要ベンダーが市場シェアを争うなかで特定の業界や営業活動をより意識したものになる可能性が高い。
クラウドサービスプロバイダーのトップを選ぶというのは、エンタープライズソフトウェア分野や一般的なIT分野のトップ企業を選ぶ場合でも同様だが、答えには「さまざまな条件で変わってくる」というただし書きがつくため、一筋縄ではいかない。IaaS市場におけるAmazon Web Services(AWS)やMicrosoft(「Microsoft Azure」)、Google(「Google Cloud Platform」(GCP))であるか、マルチクラウドハイブリッド配備市場におけるIBMやDell Technologies、Hewlett Packard Enterprise(HPE)、VMwareであるかにかかわらず、企業ごとにさまざまな変動要素が存在する。同じことはSaaS市場においても当てはまり、同市場ではSalesforceやAdobe Systems、Workdayといった企業が、IaaSやDaaSを手がけるSAPやOracleなどと戦いを繰り広げている。
とは言うものの2020年のクラウドコンピューティング分野では、2019年や2018年、2017年とは異なるいくつかの重要なトレンドが浮上してきている。これらトレンドについて、以下にかいつまんで述べておきたい。
- マルチクラウドはプロバイダーにとってセールスポイントであるとともに、企業が目指している目標でもある。企業はベンダーロックインを十分に意識しており、アプリケーションの抽象化によってクラウド間の移行を可能にしたいと望んでいる。マルチクラウドというテーマは、複数のクラウドにプラグイン可能なプラットフォームを作り上げたレガシーなベンダーらによってアピールされており、VMwareやRed Hatの製品が鍵となっている場合がしばしばだ。
- プロバイダーにとって、重要となるのはデータの獲得だ。自社クラウドに置かれている企業データが多いほど、顧客をつなぎ留めておきやすくなる。クラウドコンピューティングプロバイダーが自社のプラットフォームをアナリティクスから、パーソナライズされたエクスペリエンスに至るまでのあらゆるもののためのデータの格納場所として使ってもらおうと企業に売り込んでいるのは誰もが知っているはずだ。
- 人工知能(AI)やアナリティクス、IoT、エッジコンピューティングに加えて、サーバーレスコンピューティングやマネージドサービスが大手クラウドサービスプロバイダーにとって差別化要因になる。これまでのところ、早い段階から市場に参入し、猛烈な勢いでサービスを追加してきているAWSが大きなシェアを握っており、最初に検討されるプロバイダーとなっている。このため同社のAIやIoT、アナリティクスに関する製品の販売を拡大する能力が鍵になるだろう。一方Microsoftも、AIや機械学習(ML)を通じた差別化に目を向けている。またGoogleはML関連のノウハウを武器にシェアを伸ばしている。
これらの点を踏まえた上で、2020年の大手クラウドコンピューティングプロバイダーの動向に目を向けたい。