海外コメンタリー

中国の研究チームが光量子コンピューターで「量子超越性」達成、その意義とは

Daphne Leprince-Ringuet (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 石橋啓一郎

2020-12-09 06:30

 中国科学技術大学の研究チームは、光の粒子を操作するデバイスを使って「量子超越性」を達成し、量子コンピューティングの分野に新たな金字塔を打ち立てた。

 「九章」(Jiuzhang)と名付けられたこのシステムは、古典的なコンピューターでは手に負えない問題である「ガウシアンボソンサンプリング」と呼ばれる量子計算を行った。量子超越性とは、量子デバイスが従来のコンピューターでは実行不可能な、あるいは完了するのに極めて長時間がかかるタスクを実行できる能力を持っていることを意味する。

 研究チームは、九章がガウシアンボソンサンプリングをわずか200秒で実行したが、同じ問題を世界最速のスーパーコンピューターである「富岳」で解こうとすれば、計算に6億年かかると述べている。

 これまでに量子超越性が実現したと主張した例は少ない。Googleの研究者は2019年に、54量子ビットのプロセッサーを使用して、当時世界最速のスーパーコンピューターで計算に1万年かかるとされた問題を200秒で解けたと発表した。

 量子ビットは量子力学的に2つの状態を持っており、古典的な計算手法では不可能な方法で計算を行える能力を備えているため、大規模な計算を実行することができる。量子コンピューターは、安定した量子ビットを十分に利用できるようになれば、人工知能(AI)や金融業、運送業、サプライチェーンなどのさまざまな業界を揺るがす存在になると予想されている。

 一番難しいのは、使い物になる量子コンピューターを構成できるだけの量子ビットを作成して維持することであり、これにはいくつかの手法が存在する。例えばGoogleが開発した量子技術では、九章とは違って、金属ベースの超伝導量子ビットを使用している。

 IBMも同じ量子技術を使用しており、両社は量子コンピューティング研究を推進するために、超伝導回路の開発に巨額の資金を投じている。

 超伝導量子ビットを制御可能な状態で維持するためには、深宇宙よりも低温の、非常に低い温度を保つ必要がある。言うまでもなく、この技術の実用化にはまだ大きな壁がある。量子ビットが外部環境に極めて敏感であることは、デバイスの規模拡大が困難であることを意味している。

 一方で九章は、金属の粒子ではなく光子を操作している。このデバイスは、「ガウシアンボソンサンプリング」と呼ばれる量子タスクを実行するために作られたものだ。

 量子光学を専門とするドイツのパーダーボルン大学教授Christine Silberhorn氏は、長年にわたってガウシアンボソンサンプリングに取り組んできた人物だ。同氏は、米ZDNetの取材に対して、「この仕組みには独自の難しさがある」と述べている。「この量子実験のためにあらゆるコンポーネントを作成しなければならず、それらのコンポーネントがすべて正確に動作する必要があるため、システムの規模を拡大することは難しい。それに加え、非常に大規模なデータセットの検出と処理が必要になる」

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