最新のトレンドに注意を払っている今時の最高情報責任者(CIO)であれば、いつかは量子コンピューティング技術のことが気になり始めるだろう。
量子ビットの不思議な振る舞いについて理解することは無理でも、未曽有の技術である量子コンピューティングの登場によって、今後業界を覆すような変革が起きる可能性があることは、量子力学の博士号がなくても理解できるはずだ。
量子コンピューティングが持っている驚くべき特性を生かせば、金融サービスから農業までの幅広い分野で、効率を改善し、生産性を高め、時間とコストを節約することができ、従来のコンピューターでは解決できない、手に負えない問題を数分で解くことができるようになる。
売り文句は素晴らしいし、量子コンピューティングから享受できる可能性のあるメリットは魅力的に見える。別の言い方をすれば、試してみない理由はあまりなさそうだ。
しかし、量子コンピューティングプロジェクトを立ち上げるのは容易なことではない。この記事では、意思決定を行う立場の人間が、量子コンピューティングの実験を始める際に最初に行うべき手順を説明する。
1.事業に合ったユースケースを見つける
当たり前のように思えるかもしれないが、最初にやるべきことは、量子コンピューティングで解決できそうな問題を見つけることだ。ビジネスリーダーは、まず短期、長期の両面でどのように価値を生み出せる可能性があるかを示した、潜在的なユースケースのロードマップを作る必要がある。
量子ソフトウェア企業であるZapataの最高経営責任者(CEO)Christopher Savoie氏は米ZDNetに対し、「短期的に役に立つ可能性があるユースケースとして検討すべきなのは、機械学習だ」と述べている。「量子コンピューティングは、この領域の機能を大幅に高速化できる可能性がある。自分の会社が人工知能(AI)か機械学習に関する戦略を持っているのであれば、その戦略には量子コンピューティングが含まれているべきだ」
現時点で高いパフォーマンスを必要としている、複雑なコンピューティングが必要な分野を探して、量子計算によってメリットを受けられる可能性のあるタスクを列挙してみるのもいいだろう。Savoie氏が言うように、それに当てはまる分野には、量子コンピューティングを使用したAI用のデータベースが含まれる可能性が高い。しかし、サプライチェーンの最適化や、化学や製薬の分野における分子関連の開発なども検討してみるのも良さそうだ。
2.スタッフを集める
量子技術を導入するための鍵の1つは、量子技術の訓練を受けたスタッフをそろえられるかどうかだ。IBM Research Quantum Europeで科学技術の責任者を務めるHeike Riel氏は、「自分の会社の知識と専門性のレベルを理解しておく必要がある」と述べている。「私たちが向かっている未来では、量子コンピューティングの重要性が増し、社内で量子技術に関する専門性を発展させていけるかどうかが鍵を握るようになる」
量子技術に適したユースケースを見つけてそれを実現するには、能力のある人材が絶対に必要だ。量子技術を扱える人材は、まだ必ずしも主流ではないため、今のうちに人材を確保して維持することを優先すべきだろう。これには、大学や専門のコンサルティング会社とパートナーシップを組む方法もあるが、既存のスタッフをスキルアップさせてもよい。