本連載は、元ソニーの最高情報責任者(CIO)で現在はガートナー ジャパンのエグゼクティブ プログラム グループ バイスプレジデント エグゼクティブパートナーを務める長谷島眞時氏が、ガートナーに在籍するアナリストとの対談を通じて日本企業のITの現状と将来への展望を解き明かしていく。
今回のテーマは、「先進的なテクノロジーをどう自社で活用していくべきか」だ。企業とテクノロジーの関係がより密接となる中、テクノロジーの役割は日々拡大してビジネスの成長にとって重要な役目を果たすようになった。新しいテクノロジーはわれわれの生活をより便利で快適にする一方で、新たなビジネスの競争をもたらす。企業が生き残るためには新たな戦略が必要だが、その実現に必要なことは何か――今回は、ネットワークとコミュニケーションの観点を中心に、コロナ禍での経験を生かした「テクノロジー戦略」の実践方法を、池田武史氏に提言してもらった。
ニュートラルな立場で「テクノロジーの良い使い方を伝えたい」
長谷島:ガートナーのアナリストになろうと思ったきっかけを教えてください。
池田:日常生活やビジネスなどいろいろな場面でコンピューターが何十年も使われてきました。これまでの経験を通して、「使いこなすためにスキルが必要で使うのが大変、あるいは中途半端なテクノロジーの導入が人の作業をかえって増やしている」という世の中の流れを感じていました。「もっと良い使い方があるのでは」という思いもあり、特定のベンダーの製品やサービスを掘り下げるより、ニュートラルな立場でテクノロジーの良い使い方を伝えたいと考え、アナリストの仕事に興味を持ちました。「人がより人間らしく生きるためにテクノロジーのなすべきことは何かを追求する」ことが私の理念でもあります。
- 池田武史氏
- ガートナー ジャパン リサーチ&アドバイザリ部門 バイス プレジデント アナリスト
- 企業のITインフラに関してネットワーキングとコミュニケーションの観点を中心に、アナリストとして活動。コミュニケーションの研究、ネットワーク・サービス・インフラの企画、データセンターおよびインターネット接続サービス、マネージド・サービスのプロダクト開発、ビジネス推進、ソフトウェア開発製品およびソフトウェア・プラットフォームのマーケティングなどITに関して幅広く活動してきた経験を基に、今後のITインフラの在り方に関する支援・助言を行っている。
ガートナーのアナリストになって10年ほど経ちますが、入社当初に抱いた期待が揺らいだことはありません。これまでの経験や関心をフルに生かせる数少ない仕事の1つだと感じています。アナリストの業務に「アナリシス(分析)」をイメージする方が多いかもしれません。私は分析を元にした「シンセサイズ(統合する、作り出す)」だと思います。これからの道しるべをアドバイスしたり、メッセージやアイデアを生み出したりしていくことに尽きるのかなと考えています。
テクノロジーはどんどん進化していますが、50年後、100年後の未来から現在を見ると「チープなテクノロジーを何とか使いこなしている」というレベルです。日々の業務でお客さまと話していると、ある意味、潔く諦めて使いこなすことも大事だと感じますね。
- 長谷島眞時氏
- ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム グループ バイスプレジデント エグゼクティブパートナー
- 1976年ソニー入社。Sony Electronicsで約10年にわたり米国や英国の事業を担当し、2008年6月ソニー 業務執行役員シニアバイスプレジデントに就任し、同社のIT戦略を指揮した。2012年2月の退任後、2012年3月より現職。この連載では元ユーザー企業のCIOで現在は企業のCIOに対してアドバイスしている立場としてITアナリストに鋭く切り込む。
長谷島:少しお話がありましたが、あらためてどのような領域を担当されていますか。
池田:大きく3つの領域を担当しており、1つは「5G/IoT(第5世代移動体通信/モノのインターネット)」のテクノロジーやアーキテクチャーの導入、推進などを支援しています。5G/IoTは、今すぐというより数年後を見据えたデジタル推進の中核になる領域です。
2つ目が、「企業ネットワークの戦略や構築、運用の支援」です。この領域は既に長い歴史がありますが、企業ネットワークそのものが今、大きな変革期を迎えています。「ネットワークセキュリティ」と融合した統合的なソリューションへと変化します。