ITアナリストが知る日本企業の「ITの盲点」

第13回:レガシーシステム選別の時代に突入、ITオペレーションが目指すべき方向とは?

取材・構成=翁長潤

2020-05-14 06:00

 本連載は、元ソニーの最高情報責任者(CIO)で現在はガートナー ジャパンのエグゼクティブ プログラム グループ バイスプレジデント エグゼクティブパートナーを務める長谷島眞時氏が、ガートナーに在籍するアナリストとの対談を通じて日本企業のITの現状と将来への展望を解き明かしていく。

 今回のテーマは「ITオペレーション」だ。多くの企業がデジタルビジネスに取り組む中、組織のITオペレーション部門には、クラウドとオンプレミスを含めたIT環境全体にわたって変化に即応できるサービスデリバリーとオペレーションの中核を担う役割が求められる。DevOpsなどが普及することで、ITオペレーションは今後どう変わっていくのか――次代のITオペレーション実現に向けた戦略立案と実践へのアプローチを提言している阿部恵史氏にそのヒントを尋ねた。

中立的な立場で発言し、伝えたいことを素直に聞いてもらえる

長谷島:ガートナーのアナリストになろうとしたきっかけを教えてください。

阿部:以前は、国内企業で業務系システムのSE、外資系ベンダーでは、サポートエンジニアや各種マーケティング、新規市場開発などを担当しました。特にマーケターだった頃は、日本のユーザー企業に対して、新しいテクノロジーを活用してビジネスを伸ばしてもらうことを目指し、製品やソリューションを提供したり自分の経験などを伝えたりすることをしてきました。ただ、ベンダーのマーケディング担当者の言葉では宣伝と思われてしまうことも多く、伝えたいことが伝わらなかったり話半分に聞かれたりしてしまうこともありました。

 もっとうまく日本企業をサポートできないものかと考えていた時に、アナリストの募集がありました。ガートナーなら特定のベンダーをひいきにすることなく、お客さまの状況によって中立的な立場から発言でき、自分の伝えたいことを素直に聞いてもらえるのではないかと思いました。そこにとても魅力を感じています。

長谷島:どのような領域のリサーチを担当していますか。

阿部:ITインフラストラクチャーとそのオペレーションです。運用を担っている企業の担当者に対するインサイトを提供することが基本的な業務です。日本市場を中心に、全般的なITオペレーション領域を担当していますが、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)分野も担当しています。

ガートナー ジャパン リサーチ&アドバイザリ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ シニアディレクター アナリストの阿部恵史氏。国内・外資系ベンダーにおいて、各種マーケティングや新規市場開発業務を担当。また、業務系システムの設計・開発・サポート、インフラ系のシステムコンサルタント、バックラインサポートのエスカレーションエンジニアなど技術系の職種も多数経験している
ガートナー ジャパン リサーチ&アドバイザリ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ シニアディレクター アナリストの阿部恵史氏。国内・外資系ベンダーにおいて、各種マーケティングや新規市場開発業務を担当。また、業務系システムの設計・開発・サポート、インフラ系のシステムコンサルタント、バックラインサポートのエスカレーションエンジニアなど技術系の職種も多数経験している

DevOpsに対する日本と海外の違い

長谷島:日本企業に新しいテクノロジーをうまく活用してほしいというお話しですが、それは海外の先進的なユーザー企業と日本のユーザー企業でIT部門を比べた時に感じたことでしょうか。

阿部:最近はクラウドネイティブな企業が増えているので、必ずしも日本企業全般ではありませんが、例えば、私が担当しているDevOpsは、その考え方と適用可能なサービスが従来のITインフラ担当者にとってあまり身近ではなかったと言えます。

 基本的にこれまでのITインフラ担当者は、社内のユーザーが利用するシステム基盤について、特に信頼性や可用性を重視したシステムの構築・運用を担ってきました。ところがDevOpsの考え方では、ダメなところがあればどんどん改善することが求められます。まずはある程度許容できるレベルの品質でリリースし、オペレーションを通して開発・テスト担当のエンジニアにフィードバックをしながら改善を重ねていく手法が用いられています。

 一方、海外では歴史ある企業でもDevOpsの取り組みが進んでいます。例えば、米国の小売業のTargetは100年以上の歴史がある典型的な“ブリック&モルタル”(実店舗の販売)企業でしたが、将来の生き残りをかけてeコマ―スに着手し、各種サービスの開発・運用にDevOpsを取り入れてきました。

 実は、日本企業も海外企業もIT部門が抱えている課題には共通する部分が多いのです。「自分たちはソフトウェアエンジニアではないからソースコードが読めないし、やったことがない」というところまでは同じですが、日本企業の場合は、その後に「だからできない」とか「ちょっと様子を見よう」ということになります。一方、海外では「必要ならば、まずは一回挑戦してみよう」というマインドが重視されます

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. ビジネスアプリケーション

    生成 AI 「Gemini」活用メリット、職種別・役職別のプロンプトも一挙に紹介

  2. セキュリティ

    まずは“交渉術”を磨くこと!情報セキュリティ担当者の使命を果たすための必須事項とは

  3. ビジネスアプリケーション

    急速に進むIT運用におけるAI・生成AIの活用--実態調査から見るユーザー企業の課題と将来展望

  4. クラウドコンピューティング

    Snowflakeを例に徹底解説!迅速&柔軟な企業経営に欠かせない、データ統合基盤活用のポイント

  5. ビジネスアプリケーション

    AI活用の上手い下手がビジネスを左右する!データ&AIが生み出す新しい顧客体験へ

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]