SAPジャパンは3月9日、独SAPが1月に発表したサービス「RISE with SAP」に関するプレスセミナーを開催し、同サービスについて説明するとともに、そのコアソリューションとなる「SAP S/4HANA Cloud」の導入を決めたI-PEXを紹介した。
RISE with SAPは、インテリジェントエンタープライズを目指す顧客の包括的な変革を推進するコンシェルジュサービスだ。SAPジャパン バイスプレジデント エンタープライズビジネス統括本部長の平石和丸氏は、「RISE with SAPでは、バックオフィス業務の自動化を図るERP(統合基幹業務システム)と、DX(デジタル変革)実現に向けた技術要素やプラットフォームをPoC(概念実証)する際の使用権を提供する。また、SAPの既存ERP製品を利用している顧客には、資産の活用方法やクラウドに移行した場合どういった効果が見込めるかを分析するレポートサービスも用意している」と説明する。
PoCの使用権が含まれることについて平石氏は「DXを目指した新たな業務設計時には、自社でPoCを実施し、新しい仕組みをデザインしていかなくてはならない。そのために別途予算を確保してプラットフォームを用意していると意思決定のスピードが遅くなる。そこでERPと一緒にセットアップして提供できるようにした」と話す。
RISE with SAPのコアソリューションとなるS/4HANA Cloudについては、「従来はオンプレミスのERPをクラウド化する際、過去のアドオン資産やデータなどをスムーズに移行することが困難だったが、S/4HANA Cloudでは既存の資産を生かしてそのままクラウドに移行できる。オンプレミスの機能がほぼS/4HANA Cloud上でも利用できるほか、SAPパートナーのテンプレートにも対応している」と説明。「クラウド化が困難だった顧客のハードルを下げるソリューションになる」とした。
「RISE with SAPはインテリジェントエンタープライズを実現するための第一歩。これまでのオンプレミスからクラウドへの移行を促進できる仕組みだ」と平石氏は述べている。
SAPジャパン バイスプレジデント エンタープライズビジネス統括本部長 平石和丸氏
SAP S/4HANA Cloudでクラウド導入に取り組むI-PEX
説明会では、S/4HANA Cloudの導入を決定したI-PEXの常務取締役 技術開発統括部長 緒方健治氏も登壇。導入決定の背景を語った。
I-PEXは、2010年からSAP ERPを利用していたユーザー企業だ。保守期限は2027年だが、「サポートパッケージの関係上、2025年にサポート期限が切れるため、このタイミングで導入プロジェクトを開始することに決めた」と緒方氏。「今年1年でコンバージョンし、2年目で調整することになるので、あまり時間は残っていない」と見て早期にプロジェクトに取り掛かることにした。
今回のプロジェクトでは、技術の継承も意識していると緒方氏は語る。単にシステムを引き継ぐだけでなく、若い世代の技術者にも導入の経験値が必要だというのだ。「なぜこれに決めたのか、なぜこうしなかったのか、さまざまなことを決める過程で議論があり、そこで学ぶことは多い。議論の結果、うまくいくこともあればそうでないこともあるが、その経験が必要だ」と緒方氏は言う。
緒方氏は、以前からなぜERPがパブリッククラウド化しないのか疑問に感じていたと述べており、「使い勝手を考えるとクラウドの方がいい」と断言する。「いつでもどこでも誰もが同じ情報にアクセスできるようにすることで、単なる情報が人を通して知恵になる」と緒方氏。今後全ての情報をクラウドに移行したい考えだ。
ただし、「DXといっても単にデジタル化すればうまくいくわけではない」と緒方氏は言う。「その状況に人がついていけるようにし、企業の仕組みもついていかなくてはならない。クラウド化とともにこのような業務改革を実施し、成功につなげたい」(緒方氏)
I-PEXでは、まず今回のプロジェクトでプライベートクラウド化に取り組む。将来的にはパブリッククラウドを視野に入れているが、まずはS/4HANAのプライベートクラウドによってデータモデルを簡素化するという。
「ERPの導入には数年の年月と数億円のコストがかかる。その苦労を解決するにはパブリッククラウドで導入の仕組みを簡素化する必要があるだろう。そうすれば多くの企業がERPを利用するようになり、そこに集まった情報を活用することで解決策も生まれる」と緒方氏は述べた。
I-PEX 常務取締役 技術開発統括部長 緒方健治氏