7月1日に富士通の執行役員専務 CTO(最高技術責任者)に就任したVivek Mahajan氏が10月12日、同社のオンラインイベントで国内メディアや証券アナリストとの会見に応じ、技術戦略や自身の役割などを語った。
技術戦略などについて語った富士通 執行役員専務 CTOのVivek Mahajan氏
インド出身のMahajan氏は、米国でコンピューター技術やビジネスを学んだ後に、アジア、オセアニア地域のテクノロジー企業で多様なビジネスを経験、国内では日本オラクルや日本IBMなどで経営幹部を歴任している。
会見に先だってMahajan氏は、富士通の技術戦略を紹介。「コンピューティング」「ネットワーク」「人工知能(AI)」「データ&セキュリティ」「コンバージングテクノロジー」の5つを重点領域に挙げた。これらは事業構造の変革を進めている富士通の経営方針「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」に照らし、「デジタル社会で膨大なデータを迅速に活用するには、高性能コンピューターによる処理、データを安全に移動させるネットワーク、データから知見を得るAI、データを守るセキュリティ、そしてデータの価値を社会に融合させていく技術が必要になる」と説明した。
コンピューティングでは、理化学研究所(理研)のスーパーコンピューターシステム「富岳」に代表されるハイパフォーマンスコンピュティーング(HPC)の成果ががん医療などをはじめとする多様な社会課題の解決に貢献しているとの実績を示す。さらに、量子コンピューターの研究開発も推進しているといい、将来のゲート型マシンの実現に向けた取り組みと、既に実用化が始まっている量子アニーリング技術や量子シミュレーション技術を合せて社会実装につなげていくとした。
ネットワークでは、5G(第5世代移動体通信)における仮想化技術やクラウドを活用したオープンな通信基盤をグローバルに展開中だとし、ディープラーニングなどを用いた高効率で安全なネットワーク運用を実現するソリューションを推進していると述べた。
AIについては、特にAIが導き出す結果の理由を明確にするのが難しかった課題を因果関係から明確にできる説明技術を強みに挙げる。AIが自然災害のコンピューターシミュレーションによる解析や医療における画像診断、金融における不正取引の検出などに幅広く利用されている例を挙げつつ、こうした利用での結果を説明できる技術の優位性をアピールした。セキュリティでは、ゼロトラストセキュリティモデルやデータ保護のための技術開発に注力するとともに、ブロックチェーンのビジネス利用における信頼性や安全性を担保する研究開発をパートナーとともに推進していると述べた。
コンバージングテクノロジーでは、各種技術と人文社会の融合をテーマに掲げる。人の行動データから次の動きを予測する行動科学での活用を例に挙げ、小売大手企業らと来店客の行動データや購買データを掛け合わせて収益拡大を図る取り組みなどを紹介した。
重点とする5つの技術領域
富士通は変革の取り組みの一環として、4月1日付で富士通研究所を統合し、CTO直下の新体制に再編するとともに、CTOが技術戦略を主導する。Mahajan氏は、グローバルの研究開発体制で、新たにインドとイスラエルにも拠点を開設する方針を説明。特に優秀なソフトウェアエンジニア人材が豊富だとし、同社のスタンスを強化する目的も含め、今後数十人規模を採用していくという。
自身のCTOとしての役割については、富士通の経営方針に即して先進技術を迅速にビジネスへ結び付け、グローバルに提供することで、社会のデジタル化を促すことだと表明。「(従来のビジネスモデルの)製品やサービスの販売、システム構築といったことだけではなく、ソリューションとして提供することにより社会やお客さまの抱える課題の解決に貢献する。その成果が富士通の売り上げや利益にもつながる」と述べた。