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2023年度からの新中計で見えてくる富士通が目指す真の姿

田中克己

2021-10-11 07:00

 富士通が2023年度にスタートする中期経営計画(中計)作りにそろそろ着手するもようだ。デジタルトランスフォーメーション(DX)企業への変身を宣言した現在の中計は、営業とシステムエンジニア(SE)の役割と責任を再定義し、2022年度に中核事業のテクノロジーソリューションで売上高3兆5000億円、営業利益率10%などの目標を達成するもの。時田隆仁社長らが目指す真の姿に変革するのが新中計の施策で、それまでにメインフレームなど残された大きな経営課題を解決するのだろう。

 2020年度からの現中計は、サービスデリバリーとフロントラインの変革に取り組んだ。その1つが、各県に1社ずつ設置したSE会社の再編・統合を繰り返しながら、10月1日に富士通と富士通Japan(FJJ)の両組織にまたがるジャパン・グローバル・ゲートウエイ(JGG)に集約したこと。その数は約7000人で、開発から運用までを一体運営する内製化組織である。古田英範副社長は2021年2月に「システムインテグレーション(SI)ビジネスの在り方を変える施策の1つ」と語り、延々と続く国内の多重請負構造の改革を明かした。別の言い方をすれば、人月ビジネスから脱却し、提供するサービスの価値に対する対価を払ってもらうビジネスに転換することだ。

 そのビジネスモデルを早く実現するのがFJJになる。同社前身の富士通ビジネスシステムは中堅企業向けにシステム販売を展開し、自前を含めたパッケージソフトをそろえてきた。それらをSaaS化し、Microsoft AzureやAmazon Web Services(AWS)などのクラウド上でソリューションとして提供する。いわば“IaaSフリー”にし、その上に載るものを統合していくということだろう。FJJのテリトリーは中堅企業から自治体や医療機関、教育機関へと広げて、SaaSなどによるクラウドビジネスを推進していくことになる。

 一方、富士通本体の主要顧客とする大企業に、SaaSなど既成品の適用はなかなか難しい面もある。いずれFJJのようなビジネスを展開したいのだろうが、今は社内組織や役割を点検し、課題を洗い出す段階にある。それが「フジトラ」だ。富士通自身を変革するDXプロジェクトと銘打っているが、分かりやすくいえば草の根運動で、「おかしいな」と思う業務やプロセス、制度などを共有し、変えていくものとみられる。

 そのために、世界の従業員約12万人の意見をリアルタイムに吸い上げる仕組みを作り上げて、まずは世界各国でバラバラの商談進行管理(パイプライン)を統一する。海外だけではなく、国内の事業部門、国内子会社で同じ粒度で見るようにする。こうした業務プロセスの標準化などの計画を作成したところ。その中には、社内の制度や複雑な事務処理などがグローバル市場を展開する上で壁になることもある。それらを解決するため、グループ全体を1つの統合基幹業務システム(ERP)にする「One ERP」や商談管理システム基盤「One CRM」などのプロジェクトも立ち上がっている。

 加えて、富士通はフロントの営業とデリバリーのSEを一体化した組織にし、役割を大手顧客を担当するアカウントゼネラルマネージャーと顧客のDXを推進するDXビジネスコンサルト、専門技術を有しデリバリーなど担うSE&プリセールスエンジニア、さまざまな資格を持つ専門コンサルなどに再定義し、教育を実施する。

 目指すモデルの1つは、おそらくアクセンチュアなのだろう。経営コンサルタントから業務改革、システム構築、運用までを一気通貫で提供するITサービスで、2021年8月期に売上高505億ドル、営業利益率15.1%と富士通を上回る業績だ。グローバルオペレーションを展開するアクセンチュアのビジネスモデルは魅力的にみえるのだろう。

 だが、差異化をどう図るのだろう。富士通にあってアクセンチュアにないものがある。1つはハードウェアだ。特にスーパーコンピューター「富岳」などに代表される高性能コンピューティング(HPC)や量子コンピューター、大規模並列処理技術、第5世代移動体通信システム(5G)関連機器などで、大量のデータ処理をこなすコンピューティングパワーとネットワークのニーズに応えられるものになる。これらは、クラウドベンダーなどと組んで、単体ではなくソリューションやサービスとして提供していくのだろう。

 ハードウェアには、富士通でなくても作れるものがある。例えば、x86サーバーやストレージなどで、それをどうするのだろう。逆に他社には容易に作れないものに、富士通の収益をこれまで支えてきたメインフレームがある。国内だけではなく、ドイツやオーストラリア、スペインなどにも数多くユーザーがいるが、2022年度中にはおそらく結論を出すことになる。

 2021年7月、そんな次世代のテクノロジーを統括する最高技術責任者(CTO)として、古田副社長に代わって、IBM出身のVivek Mahajan氏が就いた。執行役員専務として招かれた同氏は、日本IBMでインフラサービスなどを担当した経験もある。どんなテクノロジーに注力するのか、注目する必要もある。

 もう1つが、システム構築やハードウェア販売のパートナー企業を数多く抱えていること。アクセンチュアは完全内製化しているが、富士通は「FSA」と呼ぶシステム開発の協力会社約150社を重要なパートナーと位置づけていた。だが、JGGの稼働で関係は崩れる。富士通は今後、協力会社に技術者の提供や下請け的な請負開発ではなく、得意とする技術やスキル、ソリューションの提供を求めていくだろう。システム販売会社に対しても、自治体など地域顧客との関係維持の重要な鍵になるだろう。販売会社にとっても、富士通に以前のような魅力的なシステムがあるわけではないだろうが、それでも自社のソリューションと富士通の自治体向けリューションをセットに売り込む。

 富士通はこうした組織体制や製品体系、協力会社との関係の再構築を2022年度中に終えて、2023年度から描いた姿への変革の仕上げ段階に入るのだろう。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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