日立製作所(日立)と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、スロベニア共和国(スロベニア)の経済開発・技術省、インフラ省、国営送電事業者ELES, d.o.o.(ELES)と共同で推進しているスマートコミュニティー実証事業において、2018年から構築を進めてきたクラウド型エネルギー管理システム(AEMS:Advanced Energy Management System)を完成させた。
一連の実証事業の第2フェーズにおける実証運転を開始することになり、11月4日にスロベニアと日本をオンラインでつなぎ、両国の関係者が出席して運転開始式が行われた。実証事業第1フェーズでは、日立が中小規模の配電会社向けにクラウド型統合配電管理システム(DMS)を構築した。実証運転開始に向けて、ELESはリュブリャナ市にある商業施設BTC地区の需要家内に蓄電池を設置した。
スロベニアでは2014年の大寒波など自然災害による大規模停電が発生しており、病院など重要施設で長期停電を避ける対策の重要性が増している。
また工場などの大口需要家では、落雷などによって瞬間的に電圧が下がる瞬時電圧低下(瞬低)が発生すると工場内の機器類に大きな影響を与えるため、これを防ぐための対策が必要とされている。
さらに、再生可能エネルギーの導入拡大や電力需要の増加に伴って調整力・予備力の確保など問題も懸念されることから、これらを解決できる、より高度で経済的な配電系統や需要家内のエネルギー管理技術も必要とされている。
実証運転では、アイランディング(系統事故時の自立運転)、瞬低対策、アンシラリーサービス(送電事業者への調整力の提供)などの機能を有したクラウド型AEMSをデータセンターに構築し、大口需要家や電力小売事業者向けのエネルギーサービス事業の確立を目指す。
アイランディングでは、停電時にDMSと連携して病院などの重要施設を含むエリアを系統から切り離し、蓄電池から電力を供給することにより、長時間の停電を回避する。なお、実際の配電系統を使用したアイランディングは、日本国内で実証例はなく、スロベニア国内でも初めての実証事業になる。
瞬低対策では、高品質な電力供給を必要とする工場などで、降雪や落雷などの自然災害に起因して発生する瞬低に対して、エリア内に設置した蓄電池を活用し、需要家の重要負荷設備を保護する。
アンシラリーサービスでは、蓄電池およびエリア内の需要家に設置されたBEMS(Building EMS)やHEMS(Home EMS)などのxEMSと連携し、系統安定化に寄与する周波数制御のための調整力を送電事業者に提供する。
実証運転を開始した、イドリア市内の配電系統に設置した蓄電池システム(出典:日立)