量子コンピューティングは、現在の新興技術で最も大きな話題になっている分野の1つかもしれないが、だからといって、すべてのデジタルリーダーがこの技術を検討しているわけではない。ある最高情報責任者(CIO)は先頃、筆者に次のように語った。「まだ調べたことはなく、いくつか記事を読んだくらいだ」
このように慎重な姿勢をとる理由の1つは、量子コンピューティングが依然として開発の初期段階にあることだ。量子は理解するのが難しく、実用化はさらに難しい。
調査会社Forresterは、ビジネスで実際に広く利用されるようになるのは何年も先だと指摘する。さらに、こうした進歩の遅さが原因で、一部の企業がこの技術の試行を断念する可能性もあるという。量子コンピューター固有の難解さのために、次第に関心が薄れていくことも考えられる。
このような分析から、CIOが量子技術に関心を持っていない理由がよく分かる。アナリスト企業Gartnerは、具体的なビジネスユースケースを想定していないなら、量子コンピューティングへの過剰な投資には慎重になるべきだと、企業に注意を促すほどだ。
デジタルトランスフォーメーションへの取り組みに大忙しのCIOが、将来を見据えて、今後10年かそれ以上ビジネスに影響がなさそうな開発に、多大な時間とエネルギーを費やすことを優先事項にするとは考えにくい。単に事業を継続させることが日々の現実なら、実現が遠い将来になるかもしれないコンピューティング能力の進歩に胸を躍らせるのは難しい。
だが、自社への影響が当面なさそうだからという理由で、完全に無視してよいわけではない。GartnerはCIOに対し、量子技術への多額の投資には慎重になるべきだと主張する一方で、今すぐ量子戦略の「キュレーションを開始」する必要があるとも述べている。それは、自社のビジネスモデルやITインフラストラクチャーへの潜在的な影響を理解しようと試みることかもしれないし、何人かに量子技術の最新の動向を追わせて組織的な知識を形成することかもしれないが、一部の企業はそれをさらに進めて、パイロットプロジェクトを立ち上げた。
Philip Morris Internationalの最高デジタルおよび情報責任者であるMichael Voegele氏は、現在の量子開発は初期段階にあるため、この分野の研究開発は優良企業よりもテクノロジー企業に適している可能性が高い、と述べた。
しかし、Voegele氏は、量子主導の変化が(たとえ時間がかかるとしても)起きる気配があることも認識している。むしろ同氏は、量子とビッグデータの融合がITの「次なる大きな進化」になるとの考えだ。
「はっきりしているのは、量子やスーパーコンピューティングを使用し、それらを分析の分野(特に人工知能と機械学習)に融合させれば、大きな進化が起きる、ということだと思う」。Voegele氏はこのように語る。「こうしたものが融合し始めれば、多くの新しいアイデアと創造性への扉が大きく開かれるだろう」
ゴルフのヨーロピアンツアーとライダーカップの最高技術責任者(CTO)であるMichael Cole氏は、5G、センサー、ビッグデータといった他の技術に力を入れており、ゴルフのプレーや視聴の改善にそれらの技術を活用する方法を探っている。