量子コンピューターはノートPCに取って代わるか--得意分野の違いと予想される用途

Daphne Leprince-Ringuet (ZDNET.com) 翻訳校正: 川村インターナショナル

2021-12-01 07:30

現代の量子コンピューターはある意味で、1950年代のコンピューターに相当するものだ。提供:IonQ
現代の量子コンピューターはある意味で、1950年代のコンピューターに相当するものだ。
提供:IonQ

 研究者、企業、さらには政府が量子コンピューティングに熱を上げている今、「Amazon Prime Day」のセールで最新世代の量子コンピューターが魅力的な割引価格で提供され、翌日配送で届くという未来を想像したくなるのも無理はないだろう。

 何といっても、20世紀半ばに開発された初期の古典コンピューターは、当時の技術の最高峰と考えられていた巨大なシステムであり、白衣を着て秘密の研究室で働く研究者たちしか利用できなかった。ほとんどの人にとって、コンピューターを日常的な用途に使うという考えは、単純にばかげているように思えた。

 だが、1970年代に半導体チップ上の強力なマイクロプロセッサーが大量生産されるようになると、突然、趣味でパーソナルコンピューター(PC)を所有できるようになった。PCは熱狂的に受け入れられて、その後の展開はよく知られているとおりだ。今では世界中で毎年何億台ものPCが出荷されている。

 では、量子コンピューティングも同じ道をたどると考えるべきなのだろうか。現代の量子コンピューターはある意味で、1950年代の巨大なコンピューターに相当するものだ。大量の精密機器に囲まれて、専門の研究所に設置されている。現在のところ市販されているデバイスはごく少数で、価格は途方もなく高い。

 それでも、量子コンピューティングの可能性は非常に大きいようだ。専門家によると、この技術は全く新しいパラダイムであり、ムーアの法則の終焉を防ぐ可能性さえあるという。メーカーがかつてないほど大量のトランジスターを使い、それを搭載するチップが微細化の一途をたどっているため、計算能力の物理的な限界に近づいていくのは避けられない、という考えがムーアの法則の終焉だ。

 量子コンピューターは、量子力学として知られる奇妙な物理学の特性を活用することにより、原理的には、利用可能な計算能力を指数関数的に増加させることができる。そのため、古典コンピューターでは妥当な時間内に解決できない問題の答えを見つけられるだろう。たとえば、新素材の非常に高精度なシミュレーションや、気候変動の正確な予測などが考えられる。

 したがって、このような優れたツールは、ひとたび商業化の準備が整えば、徐々に消費者の生活に浸透していく、という予想は大げさなものではないし、現在の使い慣れたコンピューターに取って代わるという予測も拡大解釈ではないだろう。

 だが、早合点はよくない、とシカゴ大学コンピューターサイエンス学部助教授のBill Fefferman氏が警告している。「量子コンピューティングは大変刺激的だが、その理由は、一般的に考えられている理由とは異なるかもしれない」とFefferman氏は米ZDNetに語った。

 「量子コンピューティングは、すべての問題で汎用的に高速化を実現できるわけではない。小さなタスクについては、量子コンピューターで意味のある高速化ができないことが、実際に多くの証拠で示されている」

 トランザクションデータの処理(商品の購入や売り上げ予測の確認など)を伴う日常的なプロセスは、古典コンピューターの方がはるかにうまく実行できるし、データベースアプリケーションについても同様だ。電子メール、音声通話やビデオ通話、ソーシャルメディアのスクロールはすべて、既存のスマートフォンやノートPCで問題なく機能する。量子コンピューターがこの分野で変えると期待されているものは非常に少ない。

 こうした理由から、万能のフォールトトレラント量子コンピューターが使えるようになっている可能性のある100年後でも、ほとんどではないにせよ多くのタスクに古典コンピューターが使用されているだろう、とFefferman氏は述べる。

 量子コンピューターが優れていると期待されるのは、特定のユースケースだ。例としては化学や物理学の計算があり、より優れた抗生物質や医薬品を発見できる可能性があるが、研究者たちは、機械学習とAIにおける潜在的なユースケースや、量子コンピューティングによって金融業や輸送業などで最適化問題を高速化する方法についても調べている。

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