量子コンピューティングの導入--人材採用や投資で留意すべき4つの課題

Owen Hughes (ZDNET.com) 翻訳校正: 編集部

2021-12-15 07:30

提供:Getty/ gremlin
提供:Getty/ gremlin

 量子コンピューティングはまだ初期の段階にあるが、さまざまな業界全体を変革すると予想されている。たとえば、新薬の発見やDNAシーケンシングによって医療に革命的な変化をもたらす可能性や、未発見の惑星における地球外生命体の探索の支援といった用途が期待される。

 しかし、急成長中の量子産業への関心が急速に高まったことで、企業は難しい問題を投げかけられている。目前の差し迫った課題の1つは、量子コンピューティングに関する壮大な展望を描く組織が、この非常に専門的な新分野で高度なスキルを持つ人材を見つけて獲得するにはどうすればいいか、ということだ。また、産業界と学界が、適切な資格と能力を持つ人材をもっと短期間で量子コンピューティング関連の職に就かせるにはどうすればいいか、という問題もある。

 本記事では、量子時代へと向かう組織が直面するビジネスと人材採用の課題を4つ紹介する。

求める人材や自社のビジネスニーズを把握する

 量子技術の将来的な用途は数多く考えられるが、その現実的な可能性が見えてくるのはまだまだ先の話だ。したがって、企業が量子コンピューティングで成功するために必要なスキルと能力は、まだはっきり分かっていない。

 知識の格差についても考慮する必要がある。量子コンピューティングは、私たちが知って使っている現在のデバイスを動かすプロセスとは根本的に異なる技術だ。人材採用に関する調査によると、候補者が面接官の量子技術に対する理解が不足していると感じた場合は、その会社に就職しない傾向があるという。したがって、採用担当者と採用マネージャーは、将来、最高の人材を獲得したいなら、知識に磨きをかけて、自社の正確なビジネスニーズに関する情報を把握しておく必要があるだろう。

人材を引きつける

 テクノロジー企業は(これは企業全般に当てはまることだが)、すでに慢性的なスキル不足との戦いの最中にあり、この問題は世界的なパンデミックによって大幅に悪化した。ソフトウェア開発者、データアナリスト、サイバーセキュリティ専門家、システムアーキテクトに大きな需要があることを考えると、それらの人材よりもかなり少ない量子コンピューティング専門家の採用をめぐる企業間の競争は、さらに激しいものになるはずだ。

 企業は、量子関係の職務内容を候補者にどのように紹介するか、入念に検討を重ねる必要があるだろう。興味深い仕事と妥当な給与を約束するだけにとどまらず、キャリア開発の機会、柔軟な働き方、専門知識を磨いて発展させるチャンスも提供しなければならない。

参入障壁を下げる

 量子コンピューティングの仕事に就くには高いハードルがある。何といっても、この分野で働くには、量子力学を理解しており専門家としての多様な技術的能力を有していることを証明しなければならない。一般的な9時から5時までの仕事で、このような要件はあまりみられないだろう。

 これが理由で、量子分野の人材を求めている組織は、博士号や修士号を持つ候補者をターゲットにしている。そのため、やはり候補となる人材プールが小さくなってしまう。コンピューターサイエンスや同様の科目の人気が学校や大学のレベルで低下しているため、大学生が博士号を取得して卒業するよりも早いペースで、企業における量子スキルのニーズが増大していると感じるはずだ。

 各組織と、より広範なテクノロジー業界が協力して、学生を量子関係の職に就かせる流れを加速させる必要があるだろう。また、移転可能なスキルについて考えるとともに、従業員の既存の経験をOTJやスキルアップの取り組みで補う方法を検討することで、参入障壁を下げる必要もある。量子ソフトウェア会社のClassiqが、量子技術に詳しいマネージャー500人を対象に実施した調査では、94.9%が量子コンピューティングのトレーニングへの参加に関心を持っていることが分かった。それを上回る数(95.7%)のマネージャーが、学校や大学でこの分野のトレーニングがもっと実施されるようにしてほしいと回答している。需要があることは明らかだ。

誇大広告に注意する

 Gartnerは20%の組織が2023年までに量子コンピューティングプロジェクトの予算を組むと予想しているが、Classiqの調査では、62%の組織がすでに量子コンピューティングに予算を割り当てていることが明らかになった。

 量子コンピューティングは多数の興味深い用途が期待されており、技術分野における飛躍的な進歩となる見込みだが、この技術は今なお黎明期にあり、主流に近づくまでには長い時間がかかるだろう。

 量子技術の探求に関心のある組織は、画期的なイノベーションにありがちな誇大宣伝に惑わされないように注意する必要がある。ベンダーやアナリストが量子技術の能力と潜在的な影響について立て続けに予想を発表している現状を考えると、なおさらだ。同様に、量子技術に投資する場合には、すぐに利益を得られると期待すべきではない。量子コンピューティングは、テクノロジーのエコシステムで長い年月をかけて進行していくパラダイムシフトであるからだ。ビジネス価値とROIは、長期にわたる持続的な投資によってのみ得られるだろう。企業はその過程でいくつかの失敗を想定しておくべきだ。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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