現在、オンライン上の仮想空間「メタバース」に注目が集まっています。Bloombergの推計によると、2020年に4787億ドルだったメタバースの市場規模は、2024年には7833億ドルにまで拡大するとのこと。メタバースは、現在最も熱い分野の一つと言えるかもしれません。
2021年10月末には、Facebookが社名を「Meta(メタ)」に変更し、「メタバース企業」を目指す方針を前面に押し出してきたことも話題になりました。他にも、MicrosoftやThe Walt Disney Company、字節跳動(バイトダンス)など、世界中の企業がメタバース領域に本腰を入れて参戦しようとしています。
そもそもメタバースとは何なのか。メタバースの普及によって、人々の生活や日本のビジネスはどう変わっていくのか。本連載では、ビジネスパーソンが今押さえておきたいこのような基礎知識を、メタバース領域に手を伸ばす企業の事例も交えて解説します。第1回では、メタバースの歴史を振り返った上で、今注目されている「新しいメタバース」の特徴を探ってみましょう。
「メタバース」とは何か
「メタバース(metaverse)」は、「meta(超越した)」と「universe(世界、宇宙)」を組み合わせて作られた言葉です。つまり直訳すれば「超越した世界」ということになりますが、これだけでは具体的なイメージが湧きづらいかもしれません。
メタバースが何なのかを理解するには、その歴史を追うのが一番です。そこで、メタバースの歴史を3つのフェーズに分けて解説したいと思います。
メタバース1.0:「もう一つの世界」としてのメタバース
もともと「メタバース」は、米国のSF作家Neal Stephensonの小説『スノウ・クラッシュ』(1992年)に登場する、インターネット上の仮想世界を指す言葉でした。つまりメタバースは、最初は物語の中にしかない、フィクショナルな仮想世界だったのです。
しかし、そのフィクショナルな仮想世界が2000年代初頭、「現実の仮想世界」として実装されます。それが、オンライン空間「Second Life」です。Second Lifeの大きな特徴は、従来のオンラインゲームのようにプラットフォーム側からミッションが提示されるのではなく、ユーザーが自由に社会生活を構築できることです。
ユーザーは仮想空間の中で洋服を買ったり不動産に投資したりと、まさに「2つ目の生活」を送ることができます。現実社会の通貨とSecond Life内の通貨を交換することも可能で、ピーク時には年間1億ドルがSecond Life内の通貨に消費されていました。
このように、特定のミッションを持たず、各ユーザーがコミュニケーションや生活を自由に楽しむ形のメタバース、本稿ではこれを「メタバース1.0」と定義します。
メタバース2.0:「ゲームの世界」としてのメタバース
Second Lifeのブームが去った後に登場したのが、プラットフォームから与えられるミッション(目的)と、ユーザー同士の無目的なコミュニケーションを両立させる形のメタバースです。
このタイプのメタバースを代表するのは、現在世界的な人気を博すEpic Gamesの「フォートナイト」です。フォートナイトでは、シューティングゲームを楽しむ「バトルロイヤルモード」の他に、ゲームの世界の中でフレンドとともにライブや映画鑑賞を楽しめる「パーティロイヤルモード」も用意されています。
「シューティングゲームで相手に勝つ」という目的が与えられつつ、その世界の中でフレンドとただコミュニケーションを楽しむこともできる。こうした複数の関わり方が可能になったメタバースを、「メタバース2.0」と定義しましょう。
メタバース3.0:「より良い世界」につながるメタバース
そして、今後成長が見込まれている「これからのメタバース」とは、「Meta」に代表されるプラットフォームです。モバイル向けのゲームなどを手がける「グリー」、大手ゲームメーカーの「スクウェア・エニックス」など国内大企業も続々と参入を発表しています。
「メタバース3.0」とも呼べる新しいメタバースプラットフォームの特徴は、実社会の代替となり得る、よりリアルな仮想空間であること。そしてその空間が、ブロックチェーン(分散型台帳技術)やNon-Fungible Token (非代替性トークン:NFT)といった「ウェブ3.0」の技術によって成り立っていることです。
特定のミッションが与えられず、実社会と似ているという点では、メタバース3.0はメタバース1.0に回帰しているとも言えます。しかし新しいメタバースプラットフォームは、ブロックチェーンを基盤とした分散型のネットワークを基礎とすることで、実社会の課題をも克服する可能性を秘めているのです。