グリッド、社会インフラに特化した計画立案AIのSaaSを発表

大河原克行

2023-03-14 06:00

 グリッドは3月13日、社会インフラ特化型SaaSとなる「ReNom(リノーム) Apps for Industry SaaS」を開発し、3月から販売すると発表した。電力分野向けの「ReNom POWER」、海運分野向けの「ReNom VESSL」、サプライチェーンや上場企業向けの「ReNom VALUAITON」で構成され、各分野でAIによる計画業務の自動化や最適化を実現し、現場業務だけでなく経営全体を最適化し、企業価値を向上できるという。

社会インフラ特化型SaaS「ReNom Apps for Industry SaaS」のラインアップと展開イメージ
社会インフラ特化型SaaS「ReNom Apps for Industry SaaS」のラインアップと展開イメージ

 新サービスは、数回クリックの操作だけで、AIにより複雑な計画の策定を自動化する。人が作成する計画に比べて、短時間での策定や最適化を実現したり、大幅なコスト削減が可能な計画を策定したりできるほか、これを活用することで、エネルギー削減や二酸化炭素(CO2)排出量の削減にも貢献できるとしている。また、SaaS形態での提供により、テレワークにも対応する。いつでも、どこでもインフラの稼働計画を立案でき、さらなる業務効率化が期待できるという。

グリッド 代表取締役社長の曽我部完氏
グリッド 代表取締役社長の曽我部完氏

 同日会見した代表取締役社長の曽我部完氏は、「デジタルツインとAIのアルゴリズムを融合させ、ビジネスルールや物理方程式をデジタル世界で再現した。最適化問題を解き、業務オペレーションに反映させることができる。不確実な世の中では、予測精度をいくら高めても未来を100%的中させることは困難。未来に起こり得る可能性を複数プランニングし、その中から最適な計画を選ぶことが重要になる」と述べた。

 例えば、海運分野では、船舶の動きや全国の油槽所の動きなどを物理式化してシミュレーションするだけでなく、貨物の同時積載の不可や着桟可能時間などのビジネスルールを定式化。これを組み合わせることで、複数のシナリオを提示する。ユーザーがその中から選択することで、複雑な社会インフラの計画を最適化できるとする。

 電力分野向けのReNom POWERでは、電力需給計画を策定する。電力会社が所有する複数の発電タービンからどの発電タービンを起動、停止すれば、電力需要に応じた発電を実現できるのかをAIで最適化する。当日計画や週間計画、年間計画を策定でき、さまざまな期間の計画業務に活用できる。既に四国電力で先行導入され、数億円以上の改善効果が見込まれているという。

電力分野向け「ReNom POWER」のイメージ
電力分野向け「ReNom POWER」のイメージ

 海運分野向けのReNom VESSLでは、海上輸送の最適化を実現。多様な製品輸送に対応した配船計画を立案する。石油などの化学製品から日用品に至るまで、国内における貨物輸送の配船計画をAIで最適化する。船舶の運航効率や製品の積み付けバランス、航海時間や荷役時間を含めた船舶稼働時間、CO2排出量などさまざまな制約条件を考慮した計画をAIが立案する。

 サプライチェーン関連企業や上場企業向けとなるReNom VALUAITONでは、中期経営計画や予算策定、企業価値を最大化させる前提シナリオを、AIを活用した「シナリオプランニング・デジタルツインシミューレータ」機能によって複数生成する。各シナリオの財務KPI(重要業績指標)の結果を瞬時に確認して、さまざまな指標から分析できる。シナリオのポートフォリオ分析により最適なシナリオを直感的に絞り込むことができ、最良のシナリオを選択できるという。

ReNom VALUATION」の画面
ReNom VALUATION」の画面

 曽我部氏は、「多くの企業で、現場でのデジタルトランスフォーメーション(DX)が推進されているが、これが全社の経営戦略から見たときに有効なものなのかといったことも検証できる。また、投資の意思決定についてもさまざまな事業の収益性、成長性、将来性、リスクなど比較する必要があり、ここでも複数のシナリオを提示し検討することができる。経営レベルから見たDXにつなげられる」とした。

 経営者や企画部門、現場部門まで幅広く利用できるツールとし、経営シミュレーターにより、複数のパターンに基づいて将来を予測。さまざまなKPIを重視した複数の計画を短時間に作成でき、将来の企業価値の変化も比較できるとしている。

 同社は、これまで蓄積してきた社会インフラにおけるAI開発の実績をベースに、異なる事業領域でもデジタルツイン環境やAIエンジンを活用。今回の業務アプリケーション開発についても共通化を実現したことで、同社における開発速度を高めることができているという。

 「従来は、年単位で開発していた個別の最適化システムを数カ月単位で開発した。開発効率化により、複雑な課題に対する高度なソリューションを短期間で提供できるようになった。電力会社向けや海運会社向けでも、従来は3年ぐらいかかっていたものが、約半年で稼働できるようになった。ReNom VALUAITONは2カ月程度での導入が可能」(曽我部氏)

 また、ReNom Apps for Industry SaaSでは、企業の環境対応に関するシミュレーションにも活用でき、売り上げ、利益、資産とともにCO2排出量も瞬時に経営指標の一つとして表示する。曽我部氏は「いまや企業にとってESG(環境、社会、統制)は、事業成長のために必要な指標。シミュレーションで企業価値の最大化に向けた支援を行える」と述べた。

 同社は今後3年間で100社への販売を目指すほか、さらに社会インフラ領域での対象分野を追加することも視野に入れながら各機能をアップデートしていく。社会インフラ分野でのDXを支援するという。

 「国内電力会社の10社の半分以上に使ってもらいたい。また、内航船などを運用する海運企業は約30社であり、3分の2程度(での導入)を目指したい。さらに、ReNom VALUAITONは汎用性があり、プライム上場企業を中心に提案をしていく」と述べた。1社辺りの導入価格は数千万円から1億円規模になるという。

 今後半年間でReNom Apps for Industry SaaSのラインアップを強化する。「エネルギー分野での生産計画にフォーカスしたソリューションを予定する。陸上輸送を対象にしたソリューションも提供したい」(曽我部氏)としている。

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