ITとビジネスが直結している現在、企業の規模が大きければ大きいほど、企業としてITをどう使いこなすかは、経営問題そのものになってくる。世界同時不況という暗雲が垂れ込め、将来への見通しが立ちにくい状況下で、ITをどのように活用していくべきか――。
そうしたビジネスとITの関係を巡る難題に対して、4月22〜24日に開催された日本オラクルのプライベートイベント「Oracle OpenWorld Tokyo 2009」の初日に「世界経済危機の時代 日本企業が挑むべき明日のビジネスモデルとIT」というタイトルで、日本の名だたる大企業が意見を交わした。
このパネルディスカッションには、自動車・ハイテク・消費財・小売りという異業種が参加。消費財からはアサヒビールの奥山博氏(理事・業務システム部長)と明治乳業の田中弘幸氏(情報システム部長)が、ハイテクからはカシオ計算機の矢澤篤志氏(執行役員・業務開発部長)が、自動車からはトヨタ自動車の大西弘致氏(常務役員)が、小売りからはファミリーマートの小部泰博氏(常務取締役常務執行役員システム本部長)が登壇している。
日本を代表するトップ企業のIT責任者が顔を揃え、たっぷり2時間を「攻めのIT」と「守りのIT」、「経営戦略とIT戦略の一体化」という3つのテーマで語った。
“攻めのIT”は永遠の課題
最初の「攻めのIT」は「昨年来の世界的不況の中でも、企業は常に売り上げを伸ばし、企業価値を高めるかという命題を抱えている。それにどう取り組んでいるか」というテーマ。まずここで一般消費者に直接関わる食品分野の2人から出たのは、不況の今こそ顧客を知るという基本を忘れてはならないし、それにはITが欠かせないという意見だった。
アサヒビールの奥山氏は「今は原点に立ち返り、本来やるべきことは何か。また次世代にやるべきことは何かを考えることが必要。そのためにはお客様を深く理解しなければならない。もっとお客様に深く入り込み分析する。これまではマーケティング、営業の仕事だったものでもITも一緒に考えなくてはいけない」と指摘した。
同じく食品業界に属する明治乳業の田中氏は「消費者から年間13万件の情報が寄せられる。これを迅速、正確に分析する仕組みづくりが必要だ。また、中間の流通、末端の消費者に素早く商品を届ける仕組みづくりも必要。この2つがIT部門の課題」と今後を見据えた課題を挙げている。
市場の変化にどう対応するのか
これに対し、製造業を代表する2人から次のような発言があった。
カシオ計算機・矢澤氏は「当社は調達・製造の8割が海外、また販売の5割が海外であり、これに対してグローバルなバリューチェーンのITのつなぎを考える必要がある。またマーケティングや商品開発、お客様の分析にITをどう使っていくのかが課題」としている。
トヨタの大西氏からは「自動車業界では買っていただくというフェーズから、使っていただく“所有”というフェーズが大切になってきた。この分野ではマスマーケティングではなくパーソナルマーケティングが重要であり、所有の活性化にはITの出番がある」というように、それぞれの企業が置かれた状況からITへの新たな視点が示された。
一方で小売りを代表するファミリーマートの小部氏は「当社は全国で7500店舗を持ち、またグローバルにビジネスを展開している。その中でITは個々の店舗と本部をつなぐ、極めて重要なものであり、店舗の立地条件や地域のニーズを把握するためにも大切。当社は2007年に店舗システムを刷新、ネットワークのブロードバンド化を実現したが、これが改革のインフラになっている。今後は海外展開もスピーディに進める仕組み作りが必要だ」と現状の問題点と取り組みを紹介した。
サプライチェーンからバリューチェーンへ
各社がそれぞれ置かれている状況と取り組みの概要を紹介した後、パネルディスカッションでは個々の取り組みをさらに掘り下げていった。ここで明治乳業の田中氏が語ったのは、サプライチェーンをバリューチェーンに変える取り組みだった。
「当社では牛乳やヨーグルトを毎日作り、毎日納めている。1日で完結する、この“作る、売る”という行為の調達から始まるサプライチェーンが大切。さらにそこに付加価値を付けられないかということでトレーサビリティを体系化している」