Microsoftの「Office 2010」が企業向けに発売された。モバイル機能とユーザー間のコラボレーション機能が強化されているようだ。しかし、こうしたオフィススイートについては、一般ユーザーが使う機能はすでに充足されているため、コモディティ化が進んでいると言われている。
それゆえに、「OpenOffice.org」や「Google Apps」といった競合が市場へ参入している。そして、Microsoftによる寡占への反動として、こうした新規参入組が顧客ベースを増やしている印象がある。
しかし、Forrester Researchのレポートを報じるZDNetの記事によれば、それが現時点では幻想に過ぎないことがわかる。
強いマイクロソフト
記事では以下のように報じている。つまり、まだまだ大勢はMicrosoftのユーザーであり、Google Appsはまだまだこれからという状況にある。
調査した企業の81%が「Office 2007」を導入、78%が「SharePoint」に対応しているという。それに対し、「Google Apps」はわずか4%にとどまっている。また、回答企業の3分の1が「今後12カ月中にOffice 2010にアップグレードすることを検討中」と回答した
Microsoftが強さを維持できる要因は、なぜアップグレードをするのかを問う質問に対する回答から読み取ることができる。
スイッチングコストとのバランス
記事の報じるところでは、Office 2010へアップグレードする理由に関する問いへの回答で最も多かったのは以下の3つである(複数回答方式)。
- アップグレードがライセンスプログラムに含まれているから(52%)
- アップグレードすることでメリットが得られるから(39%)
- パートナー企業や顧客との互換性のため(35%)
ここから読み取れるのは、Microsoftがアップグレードコストとスイッチングコストのバランスを正確に推し量ってユーザーの確保を行っていると思われることだ。たとえば、最も多くの回答がライセンスプログラムにアップグレードが組み込まれているというものだが、これはまずアップグレードに関わるコストを押し下げる。
そして、3つ目にある「互換性」。これは、いまだ多くのユーザーが他社製品では互換性が不十分と見ている、つまりMicrosoftユーザーのネットワーク効果がいまだ健在であることを示す。それゆえにオフィススイートを切り替えると、スイッチングに関わるコストが互換性の観点からは高くなるということだ。
仮に機能面での充足度がほぼ同じだと仮定すると、合理的な顧客企業は、アップグレードに関わる諸費用とスイッチングコストを比較して、安価な方を選択する。Google Appsであれば利用料のみなので初期投資は抑えられる。また、ユーザビリティも一般ユーザーが利用する範囲であれば大きな負担となることはないだろう。
そう考えると、やはり過去資産も含めた互換性に関わるスイッチングコストがボトルネックと言えるだろう。Microsoftは、このバランスをうまく推定してアップグレードのプライシングを行っているのだろう。
あくまでライセンスモデル
今回、Microsoftは機能の限定された無償のウェブ版オフィスを提供している。しかし、ZDNetの報じるところによれば、「製品のウェブ版を試しに使ってもらい、その機能を体験することで、最終的にはこうしたソフトウェアを購入するという流れになることを、Microsoftでは期待している」ということだ。