「みんなのBI」は集団の知恵につながるか
こうした集合知に関する知見からは、最近マイクロソフトがBI分野において推進している「セルフサービスBI」が連想される。
組織的なある課題を解決するために、もともと多様な個人が、独立性を持つそれぞれの職務における専門性を発揮しながら、分散したそれぞれの職場で独自の分析軸をもってデータを分析する。それらの結果を誰かがうまく集約できれば、その課題に対するソリューションとしての「集団の知恵」を見出すことが可能かもしれない。
マイクロソフトが言うセルフサービスBIという言葉には、分析の専門家だけではなく「みんなが使うBI」といったイメージがある。とはいえ、実際にそんなことが可能なのだろうか。
「BIを意識することなく、普通にExcelを使う感覚で、みんながBIを使っていける世界観を実現した」と話すのは、マイクロソフト、サーバ プラットフォーム ビジネス本部 アプリケーションプラットフォーム製品部でエグゼクティブ プロダクト マネージャを務める斎藤泰行氏だ。
従来から、マイクロソフトでは「Excelをフロントエンドにして、誰もがBI環境を利用できる」と繰り返してきた。斎藤氏は、「最新リリースであるOffice 2010とSQL Server 2008 R2が名実ともにきちんと連携し、Office 2010の中でシームレスかつ自然にデータ活用できるようになった」と、その完成度をアピールする。
一般にBIツールを使うにあたっては、統計解析の知識が必要であり、分析の概念を理解している必要がある。これまでのBIが、あくまでも特定の人のためのツールであり、結果的に「みんなのBI」となり得なかったのは、それが最大の原因だ。マイクロソフトは以前より、最も「文房具化」している「Office Excel」とウェブブラウザを、SQL Serverが標準で備えているBI機能と連携させることで、BIの難しさを排除しようとしてきた。
とはいえ、その裏ではIT部門がOLAPの仕組みを用意し、多次元データベースを組み、レポートの構造を作る必要があった。しかも、現場のBI活用が進むにつれて「あれも見たい、これも見たい」と声が上がるようになると、その仕組みを用意するためIT部門の作業は何十倍にも増えてしまう。結果的に、その段階でBI活用は頓挫してしまいがちだ。
「普遍的なデータについてはIT部門が大きなキューブを用意し、現場が必要とする様々なデータについては、ウェブサイトのデータやRSSのフィードデータなどを含め、必要とするあらゆるデータ項目を自分のデスクトップ上で追加して、簡単にOLAPキューブを作れるようにした」(斎藤氏)
エンドユーザーはデスクトップ上で自由にキューブを作ることができ、その分析結果をSharePointで公開したり、その公開された結果データ(あるいはブラウザで表示したウェブレポートのデータ)を自分のデスクトップに取り込んで、別のデータを加えてさらに分析したりすることができるようになるという。また、IT部門は管理ツールを使って、現場の人が頻繁にアクセスしている分析軸を把握し、その軸を大きなキューブに取り入れることによって、現場の分析作業の生産効率を上げることも可能だそうだ。これは昔からIT部門がBIツールでやりたかったことのひとつに違いない。
Excel 2010とSQL Server 2008 R2の連携は、企業の現場でこれまで待ち望まれてきた「みんなのBI」を実現するための重要なカギのひとつとなるかもしれない。BIが企業文化として定着し、そこから「集団的知性」が芽吹くことがあれば、ビジネスとBIとの関係は、さらに不可分のものとなりそうだ。
さて、企業にBIを根付かせるにあたって、ツールの「使いやすさ」は重要な要素となる。次回は、最新のBIツールにおいて、それがどのように実装されているのかについて見てみよう。