#4:ピクセルを原子に
イースト・ロンドンで発展している企業で印象的なのは、文化的遺産の上に絵を描くという、この地域で何十年も前から続けられているデザイン活動や製作活動を、一部の企業が(意識しているかどうかに関係なく)行っているように感じられる点だ。
BERGのWebb氏にとって、それはロンドンの典型的な新興企業を生み出してきた製造業的な文化を持った、デザインと広告を組み合わせる企業である。
Webb氏は「ロンドンのアプローチがシリコンバレーのそれとどう違っているのかを考えた場合、ここでは独自の文化が形成されており、少し違ったアプローチが採られているのは間違いない」と述べた。そして同氏は「原子新興企業」とも言える会社について言及した。これはコードのリリースよりも原子の出荷に興味を抱いている企業、つまり、単なるソフトウェアよりもハードウェア製品やデバイスに興味を抱いている企業のことだ。
ホクストンからショーディッチにかけては新興企業とストリートアートの拠点となっている。
提供:Steve Ranger/TechRepublic
この例にはBERG自身も含まれている。同社の「Little Printer」というデスクトッププリンタは、現実世界とデジタル世界の橋渡しをするという、「モノのインターネット」(IoT)の実現に向けた、キュートな顔をした野心的な製品だ。
他にもMindCandyや、「Sugru」というシリコンゴムを生み出したFormFormForm、「われわれはピクセルを原子にする」という宣伝文句で、顧客が自分だけのデザインの3D印刷人形を作成できるようにするMakie Labといった例がある。
Makie Labの最高執行責任者(COO)Jo Roach氏によると、同社がこの地域に居を構えたのは、サポートネットワークの存在、およびデジタルでありながらも形ある製品に取り組んでいるその他の企業がいたため(そしてもちろんながら安価な賃貸料)だという。
Roach氏は「誰かがあなたとよく似た作業を行っている場合、近い場所で作業したくなり、最終的にそうした人々が一カ所に集まるようになる。このようにして、有機的な成長が加速されていったのだった。今ではこの地域の多くの人々による一風変わったサポートネットワークができあがり、彼らは同じことをしようとしている、すなわち誰もがこの手のクレージーでデジタルなアイデアに熱心に取り組んでいる。実際のモノを作り上げるというのが、わくわくする経験であるのは間違いない」と述べた。
テック・シティの新興企業すべてがこういったタイプというわけではない。実際のところ、この地域には昔ながらのソフトウェア会社もたくさんある。しかしBERGのWebb氏は、ロンドンの新興企業とシリコンバレーのそれとの直接比較は無理だと主張している。
同氏は「われわれは、自身が思い描くシリコンバレーの新興企業というものを基準として、そのモデルに合致するものだけを称賛しようとする。このためわれわれは、英国の新興企業や欧州の新興企業になるということの意味を見出して、そういった企業を代わりに称賛する必要がある」と付け加えた。
「これはロンドンの祝福と呪いなのだ。祝福はわれわれが何かを行っていく独自の道を見つけ出しているところにあり、呪いはここで生み出されている新興企業が今まで教えられてきたような新興企業とは似ても似つかないところにある。われわれはTwitterやFacebook、Instagramとは似ていない。これらの企業はソフトウェアのみに軸足を置いているのだ」(Webb氏)