#5:テック・シティの祝福と呪い
違う観点から見た場合、テック・シティの祝福はその評判によって地図に記載されるようになったところにあり、呪いはその知名度ゆえにエコシステム自体が既に変化し始めているところにある。事例証拠からも、この地域のオフィススペースに対する需要が高まりを見せるとともに、賃貸料の上昇が起こっていると分かる。Makie LabのJo Roach氏は「今や皆がここで仕事をしたがるため、賃貸料が高くなっているという点が唯一の問題となっている」と述べている。
また、TechstarsのJon Bradshaw氏は「コストの低いベルリンに比べると、これはロンドンにおける大きな問題の1つだ」と述べている。
実際、Last.fmの共同創業者であるMartin Stiksel氏とFelix Miller氏は新会社を設立し、「Lumi」というサービスを提供しているが、その拠点は1マイルほど北に移している。Miller氏いわく、しばらくの間はあまり注目されたくないためだという。
GoogleのCampusビル内にある地下のカフェでは、「Next Big Thing」(次の大ブーム)に向けて知恵を絞っている駆け出しの新興企業がひしめいている。
提供:Google
Stiksel氏は「われわれはこの地域から少し離れたところにいる。というのもしばらくの間、Lumiの開発を秘密裏に行っていたためだ。われわれは、これらすべてのものごとから十分近いながらも、少しばかり中心地から外れた場所を探し求めた結果、ここロンドンフィールズを拠点としたわけだ。われわれの開発者らはそこをシリコンフィールズという名前で呼んでいる」と付け加えた。
地域社会はハッカーや開発者によってもたらされた経済の活性化を歓迎しているものの、地元自治体は長期的な影響に慎重な目を向けている。
ハックニーの区議員Guy Nicholson氏にとっては、テック・シティの急激な成功のおかげで、中小企業だけでなく大規模投資家までもがこの地域に目を向けるようになる結果、この地域が培ってきたものを台無しにされないようにしなければならないというプレッシャーがある。
Nicholson氏は「黄金の卵を産むガチョウを殺してしまう可能性もある」と述べるとともに「このエコシステムは非常に脆弱であり、あっという間に空中分解する可能性があるということが分かってくる。こうしたエコシステムは、ありとあらゆるさまざまなタイプの企業が共存しているという事実に頼っている。そして、それらは互いのアイデアに貢献しあっている。大企業はこうしたエコシステムをあっという間に整理統廃合し、創造性の根幹となっている本質を捨て去ってしまいかねない」と述べた。
「コミュニティーに上流階級化が持ち込まれるというのは、実際のところネガティブな展開であるが、上流階級化がコミュニティーの一部にまでなれば、それはポジティブな、そして目指すべき展開となる。こういった変革を社会の繁栄に向けた優れた手段として利用し、それとともにより幅広いコミュニティーを実現するということが、私にとって最も刺激的な観点の1つとなっている」(Nicholson氏)