悩みは優秀な人材の海外流出--ベトナム産業を支える人材養成(2)

古川浩規(インフォクラスター)

2016-05-06 07:30

 ハノイとホーチミンで「International Higher Education Day in Vietnam 2016」(主催:Vietnam International Education Development, Ministry of Education and Training)が3月5日と6日に、開催されました。GW企画として、3回にわたるレポートの2回目。1回目はこちら

 研究者としてのポテンシャルを持つ優秀な学生を集めることが期待できるため、オーストラリア、イギリス、アメリカなどからも多くの大学がベトナムに留学生を獲得しにやってきて、各大学の関係者からはベトナムに対する期待が多く聞かれました。

日本などの他国に留学することは、例え学問ができたとしても金銭的な問題が生じることがほとんど。そのため、各国からの奨学金情報が得られる説明会は立ち見も出る盛況ぶり。就職や会社に残ることを前提として、会社の資金を使って海外留学を行う場合も少しずつ増えている。
日本などの他国に留学することは、例え学問ができたとしても金銭的な問題が生じることがほとんど。そのため、各国からの奨学金情報が得られる説明会は立ち見も出る盛況ぶり。就職や会社に残ることを前提として、会社の資金を使って海外留学を行う場合も少しずつ増えている。

 彼らの中には、ベトナムでの活動後にはインドやタイといった他国をまわったり、東南アジアに駐在して採用活動を進めたりするなど積極的な活動を行う大学もあったことが非常に印象的でした。ベトナムにおける高等教育への進学が伸びる余地が十分で、学生の質も悪くないということになると、今後ベトナム国外の高等教育機関からのヘッドハンティングがより活発になるでしょう。

 しかし、この海外流出の話は、在ベトナムの民間企業の視点からも今後見過すことができなくなるでしょう。先日も、ハノイにある理工系トップ校の国際部局担当者に、「いろいろな国が、理工系の優秀なベトナム人学生を受け入れるための奨学金を設けており、学生が海外のより良い環境に身を投じる機会には恵まれている。そのため、意欲のある学生はこれらにチャレンジをしようと頑張っている。そして残念なことにこのような優秀な学生たちは、一度海外に出てしまうとなかなかベトナムに戻ってこない」という現状を聞きました。

 ベトナム政府も手をこまねいているわけではなく、留学目的を達した後にベトナムへの帰国を義務付ける政府奨学金を運用することで優秀な人材の還流を図っていますが、期待していたほどの成果は出ていないようです。

 そのため、今後海外からの人材獲得競争が激しくなると、トップ校での在籍者数が限られているだけに、ベトナム企業の採用活動に支障が出てくるでしょう。ベトナムでも人件費が高騰しつつあるため、生産性を高めるためのより良い「知」を求めていくと、いやが応にもこうした知の奪い合いにならざるを得なくなります。

 また、在ベトナム日系企業にとって、言語ギャップも大きな問題です。優秀な学生であればあるほど、海外指向が強く、英語も話せます。今回のイベントで出会った理工系を専攻しているベトナム人高校生の中には、英語でのコミュニケーションが全く問題ない上に、日本に大変興味があるために日本語も習得して日本に留学しようとしている人もいましたが、残念ながらこのような日本語話者はイベント会場では例外的な存在でした。

 英語が事実上の世界共通語である以上、仕事でも留学でも、英語だけで用が足せない日本人や日本の大学を相手にするよりも、欧米を視野に入れた就職や留学がベトナム人にとっても自然な選択肢になっています。

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