これを一因として、欧州委員会からEBAに対し、RTSに次の追記をするよう求める意見があった。曰く、銀行に対するAPI公開の義務化は変わらないものの、スクリーンスクレイピングについても、APIが機能停止になったときの「フォールバック」として利用を許可するというのだ。当然のことながら、銀行業界からは、業界団体である「European Banking Federation」や「European Association of Co-operative Banks (EACB)/European Savings Banks Group(ESBG)」が、このような妥協案によってスクリーンスクレイピングを存続させることに異議を唱えており、両者の溝は深まっている。
金融APIの普及に向けて
EUでのスクリーンスクレイピングをめぐる一件から得られる示唆としては、金融機関がAPI公開を推進する際には、既存のFinTech事業者の不安を緩和し、エンドユーザーへの安心安全なサービス提供という共通の目標に向かって協業するための施策が必要、ということではないだろうか。
具体的には、前者については、金融機関はモダンかつ業界の標準に準拠したAPIを提供し、銀行の「不自由なAPI」にロックインされてしまう懸念を拭い去るべきだろう。
また後者に関しては、金融機関による適切なユーザー認証が不可能になってしまうこと、FinTech事業者にとってエンドユーザーのID/パスワードを預かることが、エンドユーザーのIDが不正利用されるリスクにつながることを理解し、APIへの提供・利用がすべての基礎であるという認識の共有が期待される。
幸い我が国では、金融機関とFinTech事業者とが明確に対立するような構図にはなっておらず、API活用に向けて相互に協調していると言えるだろう。冒頭にて触れたとおり、当局や関係団体を中心に、APIベースのサービス連携を推進するためのルール作りや、FISCの「API接続チェックリスト」のような双方のコミュニケーションツールの作成も着実に進んでいる。
ただし、現在一部の金融機関が先行して提供しているAPIはどれも独自仕様であり、必ずしもグローバルな業界標準策定の動きとは同期できていないように思われる。
金融API標準の具体例については稿を改めて述べたいが、ここでは一点、米OpenID Foundation に設置された「Financial API(FAPI)ワーキンググループ」が進めている、認証標準のOAuth2.0やOpenID Connectをコアとする「API セキュリティ・プロファイル」に関しては、自社のオープンAPIに活用したいと考える金融機関担当者においては、ぜひ一読し、可能であれば議論に参加することをおすすめしたい。
- 工藤達雄
サン・マイクロシステムズにて10年間、アイデンティティ管理を中心とするミドルウェア分野のプリセールス、システム構築、テクニカル・マーケティングを歴任後、2008年に野村総合研究所入社。 Webアイデンティティ技術を活用したITサービスの企画・開発に従事。情報処理推進機構情報セキュリティ技術動向調査タスク・グループ委員、同「アイデンティティ管理技術解説制作委員会」委員、情報処理学会規格調査会SC 27/WG 5小委員会委員、ISO/TC247国内審議委員会委員、OpenIDファウンデーション・ジャパン事務局長など兼任の後、2014年よりNRIセキュアテクノロジーズにて、APIとデジタル・アイデンティティのコンサルティングに携わっている。