経済産業省が昨年(2018年)発表したDX(デジタルトランスフォーメーション)リポートで警鐘を鳴らす「2025年の崖」問題は、同じ年に旧来版のサポートが終了するSAP ERPの行方が大きく影響する。最新版「SAP S/4HANA」への移行は、SAPの思惑通りに進んでいるのか。
SAPが示すこれからのERPのあるべき姿とは
会見に臨むSAPジャパンの神沢正 バイスプレジデント デジタルコアクラウド事業本部長
SAPジャパンが先頃、S/4HANAおよびそのクラウド版の最新の状況について記者説明会を開いた。同社からすれば、SAP ERPのユーザーに対し、旧来版から最新版への移行を促進することが最大の眼目だ。それが2025年の崖問題をクリアすることにつながるとあって、注目度も高い。
会見では、SAPジャパンの神沢正 バイスプレジデント デジタルコアクラウド事業本部長(写真)が、「これからのERP(統合基幹業務システム)はどうあるべきか」というところから話を始めた。その内容を示したのが、下の図1である。
図1.これからのERPのあるべき姿
図1の左側は、これまでのERPが必要とされた理由として、業務の標準化や高度な経営管理、グローバルでの対応が可能なことを挙げている。一方、右側は、これからのERPが果たすべき役割として、SAPが提案している「インテリジェントエンタープライズ」を目指すことにあるとしている。
インテリジェントエンタープライズとは、ERPをはじめとした業務アプリケーションとAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、アナリティクスなどのデジタル技術が融合した企業の次世代IT環境のことだ。神沢氏が図1を示しながら強調したのは、左と右を合わせたものが「次の20年の企業競争力の礎となるコアの構築」、すなわち、これからのERPのあるべき姿である。
図2は、1972年に誕生したSAP ERPの変遷を示したものだ。S/4HANAが誕生したのは2015年。以来、これまでグローバルで1万2000社以上の顧客がS/4HANAを導入開始しており、そのうち3700社以上が稼働済みだという。日本でのユーザー数は「非公開」(神沢氏)のことだが、国内では半数以上がクラウド版の「SAP S/4HANA Cloud」を選択しているそうだ。
図2.SAP ERPの変遷