中国人の人生をある程度は左右させるイベントである、中国版センター試験「高考」が先日実施された。2020年は新型コロナウイルスの影響により、多くの地域で約1カ月遅れとなる7月7~8日に行われた。
中国でテストというと、とかくカンニング(中国語で作弊)の問題が付きまとう。「試験 カンニング」で検索すると、試験でカンニングをしようとして逮捕されたというニュースが大きな試験のたびに報じられていることが分かる。小さな日々のテストにおいてはカンニングへのチェックは甘く、割合こそ少ないがやる人はIT機器を使ってカンニングする。具体的には、テストのキャプチャ画像を「WeChat」(微博)でリアルタイムに送って、それをアルバイトが解いて返信するといった、そうした環境が今も残る。
中国では昔、科挙が行われた。古くは隋の時代から帯や本に挟んだ小さなカンニング用の紙や布が確認され、博物館に保存されているという。明や清の時代になるとカンニングは相当に増えたとされている。科挙でのカンニングの定番は「隠し持つ」「替え玉をする」なのだそうだ。
そして、それは今も変わらない。試験会場に替え玉を送ったり、カンニングペーパーを忍ばせたりする代わりにIT機器を使って遠隔から答えを手に入れるわけだ。かつては指紋認証によるチェックがあったが、指紋を使った会社の出勤記録にも活用される指紋コピー機で作った偽の指を使って替え玉が会場入りする事件があった。また電波を使った機器では、消しゴムや財布にディスプレイが付いていて電波を受信して答えを表示するものや、電波を受けると振動するペンなどがある(振動回数で答えを教えるわけだ)。
こうしたカンニングが中国全土どこかしらで試験のたびに報じられるので、高考の試験会場では、カンニングを防ぐために妨害電波を出し、携帯電話による遠隔回答を阻止しようと試みている。受験生がカンニング用IoT機器を用意する一方、試験監督側が妨害電波をあらかじめ準備しておくといった光景は以前もあって珍しいことではなかった。
2020年も中国政府は教育部ら10部門がカンニングを防ぐための通知「関于進一歩加強国家教育統一考試環境綜合治理和考試安全工作的通知」を発表し、情報産業省に当たる工業和信息化部は、各地の無線管理の組織にチェックを強化するよう指導。試験前にはテスト会場周辺の電磁環境をチェックし、家屋や車などから正体不明の電波が発せられていれば立ち入ってチェックすることを伝えた。
さらに2020年の高考では、会場側はハイテク機器を活用した3つの対処を新たに行ったと中国メディアは報じる。
まず会場でドローンを飛ばした。防犯カメラは会場に設置されているが、その死角をもドローンでカバーするわけだ。物陰に隠れ信号を出すカンニング業者をドローンで上空から発見するというもので、浙江省や広東省や江蘇省などの一部会場で採用されたとしている。
次に指紋や署名ではなく顔認証にした。試験会場への入場を顔認証にすることでチェックを厳格化し、人の手よりも高速に確認できるため長蛇の列になることを防ぎ、本人確認作業を効率化する。
最後に人工知能(AI)の活用だ。AIを用いて試験会場の室温からIT機器が入り込んでいることを検知したり、受験生の挙動に異変があること発見したりすることができる。以前紹介した記事「『起立!』『着席!』で出席数を顔認証カウントする最新学校事情」にあるような技術だろう。
2015年にも中国のカンニング事情「大学受験でハイテク機器とハイテク機器が正面衝突--中国のカンニング事情」について書いた。インターネット活用の変化とともに、特に試験監督側のカンニング防止策が強化されたことが分かる。新型コロナの感染拡大でドローンやAIが活用したように、カンニングにも最新テクノロジーが反映されているわけだ。
- 山谷剛史(やまや・たけし)
- フリーランスライター
- 2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。