山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

大学受験でハイテク機器とハイテク機器が正面衝突--中国のカンニング事情

山谷剛史

2015-06-23 06:00

 初夏になり、中国では大学受験「高考」シーズンの本番が到来した。近年の高考では、試験自体の話題もさることながら、機器を使ったカンニングのハイテクぶりも話題となる。以前は手のひらや服、下着にメモを書くといった原始的な方法があったが、モノクロ液晶が内蔵された、一見普通に見える定規や消しゴムに、やはり一見すると普通のアナログ時計だが、ガラスの表面が白黒液晶という腕時計、それに無線で音声を受信する極小のイヤホンなど、様々なハイテクカンニンググッズが登場し、毎年新手のカンニング手法が報道されては読者を驚かせている。

 カンニング関連のニュースを読むなら、カンニングのようなインチキを「作弊」、そのためのハイテク機器を「作弊神器」と呼ぶので、これらの単語で検索してみるといいが、報道を見ている限り、この2年は新製品は登場していない。定番オンラインショップの淘宝網(Taobao)や天猫(Tmall)では、これらの単語ないしはカンニングを推測できるような単語を入力すると、法律法規にあわないものとして商品一覧は表示されなくなっている。その一方で、学校の周辺や受験に絡むサイトで、カンニング機器購入を受験生に持ち掛ける業者もいるようだ。

 さて、2015年はApple Watchが登場したことから、Apple WatchまたはApple Watch登場に伴う安価な中国製スマートウォッチの試験会場への持ち込み禁止を発表した。またハイテクカンニング機器持ち込みに対して、各種国家試験の受験資格を3年間はく奪するなどの厳罰も発表。そして当日の会場側の対応がより厳しくなった。2015年にハイテク化したのは受験生ではなく、会場側だったのだ。

 テスト会場の入口では金属探知機でハイテク機器がないかをチェック。替え玉受験防止のために、指紋チェックをはじめとした身分チェックシステムでしっかり検査。身分証もニセモノが不正使用されることがあるので、ニセモノ対策をした製品が採用されている。万が一ハイテクカンニング機器を持ち運んでも受験会場外からの無線による受信を拒むべく、試験会場の教室に小型の電波妨害機器を置き、さらに2015年からはドローンを飛ばし、空からも妨害電波を発信する。監視カメラは各受験者の机上がクリアに見えるまでに解像度の高いものを導入し、各教室がずらりと映るモニターが並んだ管理センターで監視する。結局、カンニング対策が学校のさらなるIT化を促進したともいえる。

 事前にルールを発表したにも関わらず、6月6日の北京晨報の記事によると、同メディアの記者が見た限り、今年最も人気の高かったカンニング機器は、公式などを音声で語る音声ファイルが入ったMP3プレイヤー機能付きの腕時計。値段は199元(4000円)とそれほど高くなく、1週間に26個売れたという。また紙を仕込むことができるボールペンなども売れていた。

 カンニング対策が厳重になり、受験生がカンニンググッズをあきらめるようになれば受験グッズ経済が大幅に下降するかというとそうでもない。縁起担ぎの文房具や服など、様々なものが売られ、人生を左右する受験に勝つべく、受験生やその家族が買っていく。

 チェックが甘かったのか、システムの抜けがあったのか、カンニングによる逮捕者が結局、中国全土で数人出た。これは数人で収まったというべきか。ここまでしないと、中国ではテストで万全なカンニング対策の対応ができないということだろう。

 当然、中国でも大学受験が終わった後も、大学生活においてテストは続く。中国のカンニング事情はよく話題になるが、誰もかれもがカンニングをするわけではなく、カンニングをするのは一部の人々と思いたいところだ。いくつかの大学では大学内でのカンニングについてのレポートをまとめ、公開している。多くのレポートでは、「頻繁にカンニングする」という学生は1~2割程度、「たまに行う」というのが半数程度、残りが「カンニングをしたことがない」と答える。大学生の半数以上はカンニング経験者といってもいいかもしれない。カンニングは多くの人がやり、その中でも一部の人が、ハイテクカンニング機器に手を出すようである。

山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。

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