山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

巨大化しカオス化する中国の転売市場

山谷剛史

2014-10-14 06:00

 筆者の知人で、日本企業に勤務する中国人男性が、中国にいる彼女に会いに渡航するそうで、その際に中国の知人に転売するために「iPhone 6」を4台中国に持ち込むのだと言っている。彼は特別なバイヤーではない。中国ではiPhone 6と「iPhone 6 Plus」は10月17日に発売されるが、それでも少しでも早く入手したい人や、中国向けではなく外国向けのものを入手したいという人がいる。日本でショッピングする中国人にとって、日中間の移動は転売も兼ねるため航空券のコストは高く感じられず、しばしばマイナスではなくプラスにまで転じる。

 中国の国内外を問わず、中国人の多くが、小遣い稼ぎで転売しようと考え、実行に移している。ショップ出店だけならコストゼロの「淘宝網(Taobao)」に店を構え、中国の消費者が気にするような日本の商品情報をいくつかショップにあげる。バイヤーが中国国外だろうと、中国の消費者は変わらぬ態度で、ショップに書かれた店長のチャットアカウントにコンタクトし、「たくさん買ったら安くしてくれるのか」「保証や返品対応はどうなるのか」「商品の写真を見せてほしい」などと購入の相談をする。たとえ商品が魅力でも、チャットアカウントがなかったり、常に店のアカウントがオフラインだったりするとその時点でアウトで、そっぽを向かれる。

 過去に阿里巴巴(Alibaba)が、Yahoo! Japanと提携し、中国からYahoo! Shoppingの商品を正しい手続きで購入できる「淘日本」というサービスをスタートさせ、また百度(Baidu)が楽天と提携し、「楽酷天」というサービスをスタートさせたが、人気を得ることなく終了した。終了した原因には、日本側の態度が大きかったという話があるが、ユーザー側としても得するために僅かな手数料も出したくないというのがある。清く正しく販売するよりは、グレーでもできるだけ安く販売して実績を積みたいというのが中国人バイヤーの心理だ。

 CNNIC(China Internet Information Center)の調査レポートによれば、2013年のオンラインショッピング市場規模は、前年比40.9%増の1兆8500億元(32兆円弱)で、オンラインショッピング利用者数は、前年比5987万人増の3億200万人となった。これはネット利用者の48.9%に相当する。このうち「海外代購」と呼ばれる海外からの取り寄せの認知度は7.0%で、市場規模は700億元(1兆2000億円)、その多くが税関を通さず中国本土に個人輸入されたものだ。

 CNNICのレポートによれば、オンラインショッピングの利用は年齢別では20代の利用(56.4%)が高く、次に30代(22.5%)がつづく。収入別では1000~3000元(17000~51000円)が最も多く(34.5%)、次に3001~5000元(51000~85000円)となる(27.7%)。実際、所得はさほど高くないが、稼ぎ出した若き社会人の利用率は高い。

 若い社会人の80后(80年代生まれ)や学生が中心の90后(90年代生まれ)は、他の世代に比べ、授業中や仕事中にオンラインショッピングサイトを頻繁に見る。そんな彼らがけん引した結果、中国オンラインショッピングユーザーが、オンラインショッピングサイトをチェックする頻度は1カ月平均68回、平均購入回数は28回、消費金額は半年平均で3240元(約55000円)になった。気軽に買えるものを頻繁に買っているというわけだ。

 さて大型連休の国慶節では、より多くの中国人が日本へ海外へ旅行して、大量の買い物をしていった。ますます多くの中国人が海外旅行に行けるだけの金を持ち始めた証ではあるが、その多くが帰国後、知人友人にマージンをつけて買った商品を転売する。今後、旅行や勤務で日本を訪れる中国人が増えれば、転売を行う人がそれだけ多くなる。

 バイヤーが多くなり、市場規模が多くなると、中国ではお約束のように詐欺師が紛れ込んでくる。パッケージだけ本物で、中身を中国製のニセモノにすり替えて販売する事例をしばしば聞くようになった。「詐欺の無い、より信頼されるオンラインショッピング」を目指し、阿里巴巴(Alibaba)は、既存の誰でもショップを開ける「淘宝網(Taobao)」から、それなりの企業しかショップを開くことができない「天猫(Tmall)」へと舵を切っている。

 だが阿里巴巴の思いと逆行して、少しでも小遣い稼ぎをしたいと、淘宝網などで海外のモノを売ろうとする人は増えていて、まわりまわって海外製品を謳ったニセモノが増えている。消費者からみれば、少しくらいニセモノが混じろうが本物を安く買おうと躍起になるので、海外代購の勢いは変わらない。しかし中には、ニセモノをつかまされた結果、ニセモノと気づかず外国のブランドイメージを勝手に落とす消費者もいるのが厄介だ。中国で勝手に売られるだろうニセモノにどう対処するか、海を隔てた日本でも考えなければいけないときがやってきている。

山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。

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