常務執行役員 デジタル共創本部長の久世和資氏
旭化成は12月16日、自社のデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みについて説明会を開催した。同社のDXの特徴には、従業員をデジタル人材として育成している点がある。
説明会に登壇した常務執行役員 デジタル共創本部長の久世和資氏によると、同社はマテリアル、住宅、ヘルスケアという3領域で事業を展開しているという。久世氏が示す同社のDXロードマップでは、2016~2019年度を「デジタル導入期」、2020~2021年度を「デジタル展開期」、2022~2023年度を「デジタル創造期」、2024年度以降を「デジタルノーマル期」としている(図1)。
図1:旭化成のDXロードマップ
デジタル導入期では、現場に密着しながら実際の課題をデジタルで解決してきた。例えば、タイヤの表面に使われる合成ゴムの開発において、過去の実験結果や既存の製品データを機械学習で分析するマテリアルズインフォマティクス(MI)を実施し、開発のスピードを向上させた。
また遠隔での運転や問題解決に向けて、工場の3D設計図や製造装置・プロセスの情報を一体化し、コンピューター上に再現するデジタルツインを行っている。作業員の動きにもデジタルツインを活用し、身体的・精神的な負荷の軽減に取り組んでいる。作業員に加速度センサーを付けてもらい、負担がかかっている部位が赤く表示されるようにしている。
特許情報を分析して経営に活用する取り組みも行ってきた。例えば人工透析事業における世界中の企業の特許を分析すると、同社は透析膜や膜モジュールに強い一方、システム・サービスや装置・機器に関しては他社の方が進んでいると分かった。この結果から、人工透析事業の推進にはシステム・サービスや装置・機器に強い企業と連携する必要があるという。
図2:右側は同社のITツール「IPランドスケープ」を活用した旭化成グループのパテント(特許)マップ。青い点は旭化成グループが国内で出願してきた特許。点が集中している箇所は同社が強い領域だという。時系列でも分析可能で、業界トレンドを把握できる
加えて、現場の従業員がデジタルを活用できることが重要だとし、研究開発においてMIなどを活用できる「データサイエンス人材」や、さまざまな職域においてデータを分析・活用できる「データ分析人材」を育成してきた。オリジナルの教材を使用しているほか、工場のセンサーから収集されたデータを分析する「製造IoTプラットフォーム」を用意している。
現在のデジタル展開期では、事業や地域、職域を横断してデジタル化を進めている。「DXビジョン」の策定は、100人近い社内のさまざまな部門・世代の従業員が参加し、約8カ月で完成させた。2020年12月に経営層が合宿に参加し、DXによって作りたい社会や業界像をディスカッションしてDXビジョンの原型を作成。2021年1月からは現場の社員も加わり、起こり得る変化、課題/機会領域、機会領域で生み出す価値などをまとめた。
議論の結果、「Asahi Kasei DX Vision 2030」として、「私たち旭化成はデジタルの力で境界を越えてつながり、“すこやかなくらし”と“笑顔のあふれる地球の未来”を共に創ります」というDXビジョンを策定。アウトプットとして「ビジョンムービー」「ビジョンブック」も作成した。
同社は2021年1月、デジタル共創ラボ「CoCo-CAFE(Communication & Concentration-Creative, Agile, Flexible, and Evolving)」を東京都港区のオフィスに設立。フリーアドレスに加え、会議室ではなく開かれた空間を用意することで、他のチームの活動を知ったり、議論に加わったりすることを狙っている。