中国信息通信研究院の調べによると、2021年の中国のスマートフォン出荷台数は3億5100万台。これでも年間4億台以上を出荷していたころと比べれば、スマートフォンの買い替え頻度は低くなっている。一方、スマートフォンのケースについては、高額な製品が売れ始めていると複数の中国メディアが報じている。日本でもそうした製品が売られ始めている。
「天猫」(ティエンマオ)、「淘宝」(タオバオ)、「京東」(ジンドン)などの電子商取引(EC)サイトを確認してみると、さまざまなイラストが描かれたスマートフォンケースが現れては消えていくことが分かる。しばらく悩んで、いざ買おうとしたときにはもうなかったなんてこともある。「国潮」と呼ばれる独創的なデザインが流行って久しいが、スマートフォンケースにも国潮ブームがやってきている。
ティエンマオのスタッフによれば、スマートフォンケースを月に1回以上の頻度で購入する人は1000万人超に上るという。消費者の多くは女性で、ネックレスや口紅のような感覚で購入しているという。これまで個人商店や露店で販売されていた10元(約200円)程度のものとは異なり、デザインにこだわった個性的な商品のため利幅が高く、多くの企業が参入しようとしている。
「この2年間、スマートフォンには大きな変化がなかったので買い替えていないが、ケースは2カ月に1度は取り替えている。オリジナルのちゃんとしたキャラクターの商品が好きで、気に入ったデザインがあれば買ってしまう。ケースは高くないが、スマートフォンを買い替えたような気分になれていい」とケース愛好者の周さんは青島財経日報の取材で語る。「買いたい時には5、6個まとめて購入する。高くないし、気分に合わせて買っている」という人もいる。
中国のスマートフォンメーカー、Smartisanの創始者である羅永浩氏は、「当社のスマートフォンは1499元、1799元、2299元の価格帯があるが、1499元では利益がなく、1799元でもごくわずか。スマートフォンケースの方がよほどもうかる」と語る。スマートフォンが主流となり、ケース産業は活性化した。スマートフォンは競争が激しくなる一方で、ちょっと高価なケースの方が商売としてもうかるようになった。
このようにスマートフォンケースのニーズが高まっているとはいえ、中国のモノづくりで悩ましいのがニセモノの問題だ。ケースの生産は技術的なハードルが低い。ケースの材質が決まれば、スマートフォンの形状に合わせて型を作り、容易に量産販売できる。独自性を出しても、市場に出せば簡単にコピーされてしまうのが現実だった。そうなってしまうと後は低価格競争が待っているだけである。
そうしたケース業界に資金調達の波がやってきている。2021年6月にはCASETiFY、12月には玩殻工厂というケースメーカーが資金を調達した。CASETiFYは、クオリティー重視なのはもちろんのこと、自社にデザイン部隊を抱えているだけでなく、世界各地のデザイナーと提携したり、Walt Disneyとコラボレーションしたりしている。
優加も高価なケースメーカーに転じた1社だ。もともとは画面保護フィルムを販売していたが、スマートフォンケースの取り扱いを始め、今では収益の大半を占めるようになった。同社もまた、Walt DisneyやMarvel Comicsなどとのコラボレーション商品を販売する。また、冬にはコーデュロイ、夏にはガラスといった、衣服と同様に季節に合わせた素材で勝負をかけている。
「とりあえず安くていいからケースが欲しい」という消費者向けの商品は売られ続ける。その一方で、一部のケースメーカーが高価格帯の商品を販売する動きがある。そうした商品の差別化要因はデザインや知的財産(IP)だ。中国のスマートフォンケース業界では、依然としてニセモノが存在しつつも、デザインやIPで稼ぐ時代がやってきている。
- 山谷剛史(やまや・たけし)
- フリーランスライター
- 2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。