山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国警察が犯罪発見にビッグデータを活用

山谷剛史

2021-07-28 07:00

 日本では一時期、タピオカミルクティー専門店が続々とオープンしたが、中国でもジュース専門店が増えている。そうした中で、ジュースチェーンの開店詐欺が話題になった。

 上海警察に逮捕された90人超の犯罪集団は、詐欺のために「花点点」「茶芝蘭」など50を超えるジュースブランドを用意した。ジュースチェーンに詳しい経営コンサルタントを名乗って、有名ジュースチェーン数社との提携証明や説明資料を偽造。ジュース店を開業したい相談者に対して、有名ジュースチェーンは加入が難しいと指摘しつつ、偽物のジュースチェーンに勧誘する。

 偽物だと気づかれないように、実際にウェブサイトや店舗を立ち上げ、1人当たり1日40~60元(1000円前後)でサクラを雇ってまるで賑わっているかのような写真や動画の宣伝素材を撮影。用意周到に計画されていることが分かる。

 犯罪者集団の思惑通りに相談者がフランチャイズに加入して10万元(約170万円)の前金を払った後はサポートが雑になり、人の流れもない適当な場所をあてがわれ、店舗の内装は粗雑で食材も安価なものしか送られてこない。数カ月たって当初と話が違うと抗議に行くと、犯罪者集団は行方をくらまし、連絡もつかないありさま。また知らぬ顔で別の偽ジュースチェーンを立ち上げているのである。中国には有名どころのジュース専門店のほか、何とも中途半端なものもある。ひょっとするとそのオーナーはこの手の詐欺の被害者なのかもしれない。

 さて、この巧妙な手口により多くの被害者を生み、被害総額100億元(約1700億円)を超えるともいわれる犯罪者集団がなぜ発見されたのか。タピオカミルクティーのフランチャイズ加盟店に「異常な店舗閉鎖のリスク」があることをビッグデータ解析で発見すると経済犯罪の疑いで捜査に乗り出し、犯罪者集団の逮捕にまでこぎつけたのだという。

 ジュースチェーンブランドの詐欺犯罪を紹介したが、他にもビッグデータが犯罪の発見につながったケースは多くある。

 例えば、ギャンブルサイトだ。中国でギャンブルサイトの運営は違法であり、中国国外で犯罪組織がサービス提供するのが一般的だが、一部の犯罪組織は中国国内で活動している。2020年7月に中国全土でおよそ20人を逮捕し、PC8台、スマートフォン50台超、銀行カード800枚を押収し件でもビッグデータが活用された。

 アカウント管理が厳格な中国では、個人情報と各種サービスがひも付いていて、電子決済でサービスに振り込みをすれば、振込先で足がつく。そこで、逮捕された犯罪組織では、大量に金銭の受取人となるアカウントを募集し、そのアカウントから(おそらく海外に開設したであろう)非公認の金融サービスを通して、そこからさらに犯罪組織に送金することで1日当たり平均100万元(計10億元)もの金額をマネーロンダリング(資金洗浄)していたのである。犯罪組織は足がつかないよう対処していたわけだ。ところが警察側は資金の流れをビッグデータで解析することで、中国全土の中から組織の数人に目星をつけたのだという。

 また、逃亡者の逮捕にも役立つ。監視カメラで逃亡者を追跡することは知られているが、監視カメラに映された無数の車両から奇妙な行動歴のある車両を洗い出して逮捕するケースも報じられている。

 以前の記事でも取り上げたが、不正な株式取引で利益を得ているアカウントを割り出すのも、取引記録のビッグデータでふるいにかけ、問題のアカウントを発見している。

 ITインフラが進化する中国で警察もスマート化が進み、犯罪を発見して犯人を捕まえやすくなったわけだ。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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