騰訊(テンセント)を相手に、北京市の検察庁に当たる人民検察院が、未成年者保護に関する法律に違反していると提訴した。既にゲームで改善が要求されている同社への新たな改善命令になる。順を追って説明していこう。
中国政府は、オンラインゲームやオンライン動画配信、ライブストリーミングなどのサービスを提供する事業者に対し、未成年がサービスにのめり込み過ぎないよう、利用時間や課金額に上限を設けるよう指令している。これは、6月1日に施行された改正版「未成年人保護法」の74条に記載されている内容だ。また75条には、中国政府が運用する未成年向けのオンラインゲーム電子身分認証システムの活用と、22時~翌8時までオンラインゲームを提供してはいけないと書かれている。
また、中国政府のインターネット対策部門である国家網信弁は、夏休み中の未成年の健全なインターネット利用を目指した「清朗・暑期未成年人網絡環境整治行動」を発表した。これは、未成年による金目当てのショートムービーやライブコマースの配信を抑えたり、未成年へのポルノ/暴力コンテンツの広告を禁じたり、表現の良くないスタンプを未成年に使わせなかったりといったもの。この中に、「各種サービスでの不十分な青少年モードへの対策」が含まれている。青少年モードは導入されているものの、当局としてはまだ不満があるというわけだ。
青少年モードは、テンセントが提供するインスタントメッセンジャー「微信(WeChat)」や、字節跳動(バイトダンス)のショートムービーサービスで中国版TikTokの「抖音(Douyin)」、抖音と競合する「快手」など定番のアプリに導入されている。その背景には、2019年3月に国家網信弁がが抖音をはじめとするショートムービーサービスに青少年ネット中毒防止システムの導入を指導したことがあり、同年10月には主要ライブストリーミングサービスや動画プラットフォームも対象となった。
こうした中で、抖音が真っ先に対応を発表した。青少年モードにすると、配信時間や課金額が制限され、40分以上の利用にはパスワードの入力が求められ、それを解除できないとその日のサービス利用が不可能になる。また22時~翌6時まで使用できなくなるというものだ。
中国のインターネットユーザーはおよそ10億人いるとされる。そのうち、TikTokのようなショートムービーサービスはおよそ9割、つまり9億人が利用するという。特に若者のユーザーが多く、利用に制限をかけるとなれば、サービスの利用時間が大幅に減ることになる。とはいえ、直近では業績にマイナスとなるアップデートだが、人民日報や新華社といった権威のある中国メディアからはまんざらでもない評価を受けている。
一方の微信も、青少年モードを導入したものの、十分に制限がかけられているとは言い難い状況だ。夜中も利用できてしまうし、青少年にはふさわしくないポルノ/暴力などのコンテンツも見えてしまう。微信を通じてゲームを遊ぶこともできる。前述の権威あるメディアは「青少年モードは設定だけはされているがその実は何もしていない」と、微信の対応を厳しく批判している。そうした指摘からしばらくして、北京市の検察が動いたわけだ。
もちろん、それなりにしっかり対策した青少年モードを設定すれば、それで万事解決するわけではない。青少年モードに変更するためのパスワードを設定したところで、子供はすぐに変えてしまうだろう。保護者がスマートフォンのロック解除のパスワードを設定したところで、子供は親が使うときに盗み見てすぐに覚えてしまうのは、どこの国でもあることだ。
ネットサービスを利用する際に、実名認証として氏名と身分証番号を入力させるものもある。中国では、犯罪を犯すと犯罪者の身分証が晒されるが、その氏名と番号を使えばサービスを利用できてしまうことを、中国の若いインターネットユーザーは知っている。
また、携帯電話番号を使って認証するモバイルアプリは多い。しかし、同じサービスをPCからだと電話番号の認証なしで利用できてしまうケースがある。新型コロナウイルス感染症が拡大したときには、中国全土でオンライン授業が実施されたくらいなので、スマートフォンやPCは各家庭に当たり前のようにある。PCを使って回避する手段も多くの子供が持ち合わせているのだ。
今までこうした抜け穴は放置されてきた。上述したゲーム規制のように、青少年への対応を強めるべく身分認証を強化することになれば、身分証を持たない外国人が中国でネットサービスを利用できなくなるというリスクもある。
- 山谷剛史(やまや・たけし)
- フリーランスライター
- 2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。