「SASはプライベートカンパニーであることから顧客が主要な株主になる。そこで顧客の利益を最優先させることがSASの最大の使命といえる」。
SASの最高経営責任者(CEO)であるJim Goodnight氏は、同社がスイスのジュネーブで開催しているユーザーカンファレンス「SAS Forum International Geneva 2006」(SFI 2006)のオープニングのステージでこう話した。
「顧客を満足させるためには、まずSASの従業員を満足させることが必要だ。従業員が会社に満足していれば、顧客のために一生懸命働こうと自然に考えてくれる。これによりSASという会社は成長を続けることができる」(Goodnight氏)
この言葉通りにSASは、1976年の会社設立から29年間、増収・増益を続けており、2005年には16億8000万ドルを売り上げた。これまでにも何度かGoodnight氏に会える機会があったが、同氏は常々「SASがこれほど成功できた要因は、社員を大切にするという企業文化があったからこそだ」と話してくれた。
この企業文化をかたくなに守り続けているのがSASの人事部門である。北米以外のすべての地域を統括するSAS Internationalの財務・人事担当バイスプレジデント、David Schwerbrock氏は、これまでは財務だけを担当していたが、その功績を認められ2006年より人事も担当することとなった。
Schwerbrock氏は、「人事の仕事を兼務するようになったのは、財務において良い仕事をしたと評価されたから。しかし私が良い仕事ができたのは、優れた部下に恵まれたからだ」と話す。人事担当者としての心がけを同氏は、「今日、会社から自宅に帰った従業員が、明日も会社に戻ってきてくれる環境を作ること」と話している。
従業員が満足できる職場環境を実現するためにSASでは、人事制度や福利厚生の充実に努めている。同社の優れた人事制度や福利厚生は有名で、日本のテレビ局も米国ノースカロライナ州キャリーにあるSASの本社に取材に訪れたほどだ。
SASの福利厚生では、広大な本社キャンパス内にあるスポーツジムをはじめとするさまざまな施設が、すべて無料で使用できる。また、勤務中に子供を預けることができる託児所は、一般的な価格の約3分の1で利用可能だ。こうした福利厚生は社員に好評という。
福利厚生がSASのビジネスにもたらす効果としては、まず離職率が低くなる。本社の離職率は3%強、「SAS Internationalでも10%以下」(Schwerbrock氏)という。IT業界全体の離職率が20〜25%といわれていることから、いかに驚異的な離職率かが分かるだろう。SASでは、長年において担当者が変わらないことから、製品を市場に投入する期間を短縮し、顧客満足度を向上できるという。これにより売り上げも拡大し、長期的にはROI(費用対効果)を向上することができるというわけだ。
こうした取り組みによりSASは、米フォーチュン誌の「最も働きがいのある会社ベスト100社」(100 Best Companies to Work For)で、常に30位以内にランクキングされている。ちなみに、SASの日本法人も2003年に転職雑誌で「転職したい企業の40位」に選ばれた実績がある。
しかし、こうした取り組みを30年間続けることは、言うほど簡単なことではない。30年間のIT業界の変化を考えればなおさらだ。SFI 2006の会場で、再びGoodnight氏に会えるチャンスがあったので、SASという会社を30年間続けるモチベーションをどのように保ってきたのかを聞いてみた。
Goodnight氏は、「何事においても常にチャレンジすることだ。それと自分の仕事を常に楽しむこと。私はプログラミングをしているときが何よりも楽しい時であり、だからこそ30年間、SASという会社を続けることができた。あと20年は続けるつもりだよ」と話してくれた。