プロプライエタリシステムの現状
9月8日、オープンソースソフトウェア(OSS)の普及をめざすユーザー向けのカンファレンス「Enterprise OSS 2006」が青山ダイヤモンドホール(東京都港区)で開催された。同カンファレンスの基調講演には、Open Source Initiative(OSI)会長でRed HatのバイスプレジデントであるMichael Tiemann氏が来日し、熱弁をふるった。
Cygnus Solutionsの共同創立者であり、GNU C++コンパイラの開発者でもある同氏は、まずソフトウェア産業の歴史を振りかえり、1961〜1965年のIBM OS360開発計画をその嚆矢として、そして最初の失敗例として挙げた。
この開発計画に参加したFred Brooks氏の著作である「Mythical Man Month」より、「ソフトウェアはビジネスロジックを追っていない」との一節を引用し、「ソフトウェア産業は米国の牽引車ではあるが、ソフトウェアというものは努力すればするほど拒絶反応を示してしまう。プロプライエタリなシステムではもはやビジネスをサポートすることはできない」と強調する。
さらに今日、ハードウェア/ソフトウェアに年間約5000億ドルの投資がなされているが「これらのプロジェクトの18%は稼働前にキャンセルされ、50%は納品の遅れ、機能の欠落か深刻なバグに見舞われている」とした上で「年間1800〜2800億ドルもの損失を招いている」と指摘、「もはやソフトウェア産業は終わりだ」と宣言した。
OSSの利点とは
それでは、その先には何があるのか?
Tiemann氏によれば言うまでもなくOSSということになる。ではプロプライエタリシステムとOSSとの相違はどこにあるのだろうか。同氏は、2件の事例から解説した。
まず1件目は、ウェブの産みの親ともいうべきTim Berners-Lee氏だ。Berners-Lee氏は1989年にウェブを開発したが、実はそれまでも情報共有の努力はさまざまになされていたという。過去の努力が実らなかったのは結局、開発者がそれをコントロールしたがったからだった。
「もしテクノロジーがプロプライエタリで私のコントロール下にあったら、たぶんテイクオフできなかったろう。ウェブをオープンシステムにするという決断が、ユニバーサルなものにするために必要だったのだ」とBerners-Lee氏は語っている。
もう1件は、GEを覆っていた官僚主義を排し、同社を資産4100億ドルまで成長させたJack Welch氏の例だ。それまでGEは、社内で設計/開発していた製品をプロトタイプとして顧客に提案していた。これは顧客からのフィードバックを受けて設計/開発を続けるという一般的なライフサイクルだった。ところが彼は設計/開発から下流の工程を顧客側に開放してしまったのである。GEはメーカーとしての枠を超え、いわばサービス業に転進したといってよい。
「もし設計/開発をGEのなかに留めたままだったら、製品はGEの限界を超えられない。どんな顧客でも優れたデザイナーたりうることを示しているのです」とTiemann氏は総括する。
この2つの例が示すように「開発者ではなく顧客、つまりユーザー自身が自分のシステムを開発し、コントロールできること」がOSSの最大の特長であるというのである。