情報通信技術の新たな使い方

ビッグデータが拓く農業という成長産業 - (page 2)

菊地泰敏(ローランド・ベルガー)

2014-12-16 07:30

高齢化する就農人口

 日本における農業の課題、としたらどうであろうか。一番に挙げられるのは就農人口の高齢化であろう。また、諸外国と比べ、その生産規模が小さく(一件あたりの田畑の面積が小さい)生産効率が低いことも課題であろう。

 これらの課題解決に対しどのようなICTの利活用が考えられるであろうか?

農業就業人口、基幹的農業従事者数の推移(出典:農林水産省)
農業就業人口、基幹的農業従事者数の推移(出典:農林水産省)

 まず、自然環境の影響をなるべく受けないようにするために、「植物工場」という取り組みがある。植物工場という概念の定義も、いろいろとあるが、整然とした”工場”の中で、水耕栽培のトマトやレタスなどが作られている、あのイメージである。

 工場内は温度や湿度、光やCO2濃度などが各種センサでモニターされるとともに、自動で最適な状態にコントロールされている。このため、安定的に収穫が可能になるのである。また、肥料濃度についても露地栽培と比べてはるかに制御が容易であり、それゆえ栄養価の高い野菜が作れることはもちろん、低カリウムレタスを腎臓病患者向けに栽培することなども、比較的容易なのである。

 工場内という閉域であれば、病害虫の侵入を防ぐことができるため、農薬を使う必要もなく、安心で安全な作物が栽培可能である。また、工場内で取れたことは確実であるからトレーサビリティも確保しやすい。

 植物工場は外的環境から隔絶された環境を作り出すことで「農業の第二次産業化」を狙ったものであるが、これ以外にもICTの利用は進んでいる。

 露地栽培であったとしても、畑に多くのセンサを配置し、さまざまな栽培環境に関するデータを収集、蓄積、分析することが可能になった。いわゆるビッグデータの活用である。

ビッグデータを活用する農業

 農業は、栽培地域ごとの気候、種苗の種類、作付け時期、肥料や農薬の散布、そのほかさまざまな要素による影響を受けるため、経験と知見が重要である。従来は、個々の栽培者により蓄積された知識や経験を個人レベルで使うか、あるいはそれを農協レベルで共有するのがせいぜいであった。

 しかしながら、ICTを用いることで、これまでとは比較にならない量のデータを収集分析することが可能になり、これを用いることで、効率化を図ることが可能になったといえよう。

 マクロな視点で産業構造の変遷を見ると、「知識集約産業」が「データ集約産業」に遷移しているが、農業も例外ではなく、むしろデータ集約産業化の余地が多分に存在し、高効率化を狙える産業なのである。

 日本はICTにおいては世界有数の競争力を持っていると思われているが、農業へのICT利用については、残念ながらオランダやイスラエルの後塵を拝している。例えば、収穫量の効率性でみると、オランダは日本の3-5倍といわれている(「九州における植物工場等ハイテク農業の成長産業化に向けた課題と展望、日本政策銀行、2014年3月」)。

 もちろん優れた先例を学ぶことは大切ではあるが、それだけでは日本の競争優位性を獲得するには心許ない。

 では、日本が目指すべき農業へのICT利活用はどのようなものであろうか?

 ここで、少々唐突に聞こえるかもしれない提言をしてみたい。

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