だが、これには問題があるように思える。第1に、IBMの「戦略的必須領域」は、まだ事業全体の3分の1を占めるに過ぎない。第2に、IBMの「戦略的必須領域」は決算の数字には表れていない。
実際、2015年の決算ではすべての部門で売上高が減少している。グローバルテクノロジサービス部門は10%減、グローバルビジネスサービス部門は12%減だった。システムハードウェア部門については、System Xを手放したことで苦戦を予想した人も多いだろうが、実際に24%減少した。しかも、急速に成長しているはずのソフトウェア部門までが10%減少している。
もちろん「戦略的必須領域」の事業はIBMの各部門に分散しているのだろうが、すべての部門の売上高がマイナスになっているとすると、急速に成長しているという「戦略的必須領域」は果たして十分な貢献をしていると言えるのだろうか。
この結果は、IBMは実際には新規事業を開発しているのではなく、自社の既存事業を共食いしているのではないかという疑念を生む。実際、さらに悪い状況になっている可能性もある。IBMはこの戦略を強化するため、過去10年間で約100社の企業を買収しているからだ。これには、Cognos(買収額は50億ドル)、Softlayer(20億ドル)、Netezza(17億ドル)、Kenexa(14億ドル)、Trusteer(10億ドル)も含まれている。
当然、Microsoftも同様の問題を抱えている。ただしMicrosoftは、企業は社内でクラウドを持つことも、ハイブリッドクラウドを持つこともできるので、ハードウェアがどこにあるかはあまり問題ではないという見方をとっている。このため、同社はサーバソフトウェア事業を新たに作った「インテリジェントクラウド」部門に含めることにした。多くの顧客は自分のデータセンターでソフトウェアを実行し、一部はMicrosoftのクラウドで実行する。そして、この2つの間でジョブを移動させることもできるとすれば、別々に数える必要はないという理屈だ。
このアプローチにより、Microsoftのクラウド部門は実際よりも大きく、成功しているように見えている。しかし、少なくともMicrosoftは非常に目立つクラウド事業をいくつも進めている。これには、「Office 365」、「Dynamics CRM」、「Skype」、「Outlook」の電子メール、「OneDrive」、「Bing」、「Windows Store」、「Cortana Analytics」などが含まれる。さらにNadella氏は、Microsoftは「この市場でSaaS、PaaS、IaaS、ハイブリッドクラウドのすべてを大規模に提供している唯一の企業だ」と主張している。これによって、LinuxなどのMicrosoftがこれまでサポートしてこなかったプラットフォームからの新規事業も獲得しつつある。
Microsoftが業績発表後に行ったカンファレンスコールで、Nadella氏は「エンタープライズクラウド市場のチャンスは巨大であり、過去に当社が参入したどの市場よりも大きい」と述べているが、これは正しい。また、この市場はAmazon、Google、IBMを含む強力なライバルがひしめき合う、最も競争が激しい市場の1つでもある。
戦いの趨勢は、(AmazonとGoogleが先陣を切っている)値下げと、(MicrosoftやIBMが得意とする)法人顧客を支援する能力によって決まるように見える。この状況で、IBMが「戦略的必須領域」の考え方で必要とされる高マージンを得るためには、Microsoftよりもはるかに優れたサービスを提供しなくてはならない。
コスト削減のために経験豊かなスタッフを千人単位で解雇しているIBMが、それを実現できるだろうか?そうは思わない。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。