開発競争が過熱--「量子コンピュータ」の国際会議で日本企業は何を語ったか - (page 5)

田中宗

2017-08-24 07:00

まとめ

 本記事冒頭で述べたように、私はAQC2017の組織委員を務め、また、私の共同研究者の方々がいくつかの講演を行った。そのため、AQC2017を外側から見た他のメディアの報じ方と異なる観点で、AQC2017を内側から見た記事を執筆した。

 本記事では詳細に取り上げることができなかった話題として、量子アニーリングの基礎理論に関する研究が挙げられる。

 1998年に量子アニーリングが提案された当時には、いまのような技術発展を想像できた人は誰もいなかったのと同様、量子アニーリングに関する今の基礎理論研究が将来、革新的な技術の種になるかもしれないし、または基礎学理としての重要な新しい発見につながるかもしれない。

 応用志向の研究同様、基礎研究は常に重要なものであることは強調したい。

 AQC2017の特徴的な点は、純粋な基礎科学の研究成果報告と、実社会利用を見据えた応用研究に関する報告が同居していたことである。もともと基礎科学の研究から得られた基礎概念が、使える計算技術として大化けしている瞬間にいま、立ち会っているという感覚を受けた。

 世界各地でハードウェア開発競争が繰り広げられており、これから数年かけて、さらに性能の良い量子アニーリングマシン、もしくは類似の概念で動作するハードウェアが次々に開発されていくだろう。

 また応用事例探索の研究については、世界各地のトッププレーヤーに引けを取らない国内企業の活躍がある。日々の業務や生活の中で、「どこに組合せ最適化問題が潜んでいるか」を見つけ出す人々が増えてはじめて、新しい応用事例が次々と生み出される。

 その結果、応用事例探索に触発され、ハードウェアの開発が進むといったサイクルを通じて、量子アニーリングや類似の計算技術がスケールする技術として大きく発展していくはずだ。

 AQC2017の口頭講演動画が先日公開された。詳細な情報を知りたい読者の方は、ぜひ視聴していただきたい。

 来年開催されるAQC2018は、NASAのエイムズ研究センターで開催される予定だ。AQC2017の聴衆の方々の中から、2018年こそは発表したいという声が聞かれた。AQC2018では、何が語られるだろうか。今も猛烈な勢いで、量子アニーリングの研究開発は進んでいる。


AQC2018の開催地を予告する西森秀稔氏(東京工業大学、AQC2017組織委員長)
(東北大学 大関真之氏提供)
田中 宗(たなか しゅう)
早稲田大学高等研究所准教授、JSTさきがけ研究者
博士(理学)。近畿大学量子コンピュータ研究センター博士研究員、東京大学大学院理学系研究科にて日本学術振興会特別研究員(PD)、京都大学基礎物理学研究所基研特任助教、早稲田大学高等研究所助教を経て、2017年より現職。また、2016年10月よりJSTさきがけ研究者を兼任。専門分野は物理学、特に、量子アニーリング、統計力学、物性物理学。NEDO IoTプロジェクト「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト」委託事業における「組合せ最適化処理に向けた革新的アニーリングマシンの研究開発」に従事している。量子アニーリングの研究開発を加速させるため、多種多様な業種の方々との情報交換を積極的に行っている。

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