古賀政純「Dockerがもたらすビジネス変革」

歴史を変える「The Machine」の価値 - (page 3)

古賀政純(日本ヒューレットパッカード)

2018-01-18 07:30

電源を切ってもデータが消えないメモリ

 現在のコンピュータでは、記憶装置が階層化されており、ハードディスクドライブにデータを保持しています。階層化された記憶装置の構造は、CPUからすると、非常に低速な装置とのデータのやりとりが頻繁に発生します。そのため、階層化された記憶装置は、全体の処理速度の低下をまねきます。したがって、低速な記憶装置の階層構造から脱却しなければなりません。

 メモリ主導型の構造を持つThe Machineでは、周辺に存在するさまざまなプロセッサがメモリ上のデータを処理しますが、データ自体は、常にメモリ上に保持します。電源を切ってもデータが消えることなく存在し続けるメモリです。しかも、このメモリは、階層構造をとりません。低速なハードディスクとそれよりは幾分速いメモリといった分け方ではなく、高速なメモリ自体がデータ保管庫になるのです。

 The Machineに搭載するデータの消えないメモリは、現在のコンピュータのメモリと同等以上の速度で、かつハードディスクなみの容量を実現しなければなりません。このようなメモリは、ユニバーサル・メモリ(不揮発性メモリ)と呼ばれ、HPEの中央研究所(HPE Labs)で研究・開発が行われています。


電源を切ってもデータが消えないメモリが必要

銅線から光へ

 一般に、CPU主導型の現在のコンピュータは、プロセッサ、メモリ、外部記憶装置(ハードディスクやSSDなど)、入出力装置が銅線のデータ伝送路で結ばれています。ここでは、あまり厳密に説明しませんが、コンピュータにおけるデータのやりとりは、突き詰めると、銅線の中に流れる「電子」という粒子が担います。電子は、銅線の中を通る際に、銅線の原子に衝突してしまいます。この衝突は、「抵抗」と呼ばれ、データを遠くに転送する足かせにもなります。また、抵抗によって熱も発します。

 さらに、銅線では、データ通信をより高速に行おうとすると、それに応じて、信号の劣化(ロス)による再送信も起こりやすくなるため、高速なデータ通信を遠距離で行うことが難しいのです。また、信号の劣化を防ぎつつ、距離を稼ごうとすると、その分だけ巨大なエネルギーが必要になります。すなわち、銅線をベースにした機械において、あまりエネルギーをかけず、高速なデータ通信を行うためには、その通信を行うモノ同士の距離が近くないといけないのです。例えば、プロセッサとメモリは、非常に高速なデータ転送を行う必要があり、信号の劣化やロスができるだけ発生しないようにしなければなりません。そのため、プロセッサとメモリは、物理的に非常に近い場所に配置されています。

 この問題を解決する手段として、ヒューレット・パッカード・エンタープライズでは、電子のかわりに光でデータ伝送を行う技術を研究しています。光は、電子と同じスピードで進みますので、スピードという面では、光も銅線を流れる電子も同じですが、距離という面では、電子に比べて遠くまで通信が可能です。電子の代わりに光で通信することは、コンピュータ同士を接続して性能をかせぐといったスケーラビリティにおいて非常に重要です。

 これにより、The Machineを複数接続した場合でも、距離を気にすることなく巨大なメモリを利用することができるようになり、性能をスケールさせることができます。例えば、コンピュータを搭載するラック160本を考えます。1ラックあたり1ペタバイトのデータを取り扱えるとすると、ラック160本では160ペタバイトのデータを取り扱うことになりますが、The Machineであれば、これらの1本目のラックと160本目のラックまでの距離が離れていても、数百ナノ秒というレベルで、160ペタバイトのデータを一度に処理できるようになります。

 また、The Machine単体においても、プロセッサ、メモリ、入出力装置も銅線ではなく光で通信する構造に変えることで、データ伝送の劣化の問題を解消することができます。


銅線から光へ

光は距離の問題を打破

The Machineがもたらす未来のIT

 HPE中央研究所が研究・開発を進めるThe Machineは、どのような変革をもたらすのでしょうか。以下では、2020年以降のThe Machineがもたらす未来のITの可能性を語ります。

快適な旅行を提供する未来の人工知能マシン

 2017年現在、IT業界において非常にホットな話題が人工知能です。コンピュータに脳の機能を模倣したプログラム(ニューラルネットワーク)を稼働させることで、コンピュータに学習機能を持たせることができます。近年、ニューラルネットワーク(深層学習)の研究が進み、コンピュータの学習時間も大幅に短縮され、知的な情報処理を行えるようになってきました。

 The Machineに人工知能が組み込まれれば、今よりも学習時間は大幅に短縮され、巨大な不揮発性メモリ上にさまざまな情報を蓄え、人工知能に特化したプロセッサが即座に情報を処理し、結果をユーザーに回答するようになるでしょう。例えば、The Machineに対して、悪天候の最新情報を問いかければ、The Machineは、そのユーザーに天気の情報だけでなく、さまざまな付帯情報をリアルタイムに提供・提案します。悪天候の状況、フライト状況、鉄道の情報、過去の旅行者の行動履歴、地理的な情報などから、一番距離が近いホテルの空き部屋と朝食付きのプランを即座に提案するThe Machineが胸ポケットに入っているかもしれません。


The Machineが描く近未来:人工知能がより身近に、リアルタイムに

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