ITアナリストが知る日本企業の「ITの盲点」

第18回:人材の課題を嘆く前にCIOがやるべきこと

取材・構成=翁長潤

2022-07-14 06:00

 本連載は、元ソニーの最高情報責任者(CIO)で現在はガートナージャパンのエグゼクティブ プログラム グループ バイスプレジデント エグゼクティブパートナーを務める長谷島眞時氏が、ガートナーに在籍するアナリストとの対談を通じて日本企業のITの現状と将来への展望を解き明かしていく。

 IT業界には、技術がどれほど進化しても変わらない課題がある。「人材不足」と「育成にまつわる投資」の問題だ。特に、人に関わる問題は、IT人材の採用、育成や配置から調達(内製とアウトソーシング)まで幅広い。今回のテーマは、慢性化しているIT人材の確保・育成の問題について。デジタル化やグローバル化に伴い企業間競争のスピードが速まる中、長い時間が必要とされる人材の育成と変革をどう実現すればいいのか、足立祐子氏に聞いた。

IT人材の育成、組織文化変革、CIOリーダーシップなどを担当

長谷島:アナリスト/リサーチのお仕事を始めたきっかけを教えてください。

足立:ガートナーのアナリストの中では異色な存在かもしれません。私はテクノロジー畑ではなく、学生時代に東洋と西洋の文化の違いを研究するなど哲学や宗教、人文学系を専攻してきました。ガートナーに入社してからは、アウトソーシング領域を担当してきましたが、昨今のグローバル化に伴い、グローバルソーシングを担当することで、これまでのアカデミックな研究と業務の内容が合致し、さらにエンジンがかかってきました。

長谷島:現在はどのような分野を担当されていますか。

足立:大きく分けて3つあります。1つは、IT人材の育成です。テクノロジーの世界ではどのような人材が必要なのか、また、どうやってモチベーション高く働いてもらうかについて取り組んでいます。

 2つ目が組織文化の変革です。デジタルビジネスを進める上では、組織文化がすごく重要です。昔ながらの伝統的な文化からリスクを恐れずチャレンジする組織になるために、どう組織文化を変えていくべきか、その変革のステップや実践方法について担当しています。3つ目が、CIOのリーダーシップです。今後CIOの方々にどのようなリーダーシップやコンピテンシーが求められるのかについて、動向分析や提言をしています。

足立祐子氏
ガートナージャパン リサーチ&アドバイザリ部門 ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリスト
CIO向けリサーチを担当。主に人材育成、リーダーシップ、デジタル・イノベーションとトランスフォーメーションに向けた組織文化変革に関する動向の分析や提言をしている。

世界的なテクノロジー人材の不足、海外企業はどう解決している?

長谷島:どの分野もホットな領域ですね。少しきつい言い方なりますが、IT人材や組織の文化は、特に日本企業がITマネジメントの課題として真剣に取り組んで来なかった領域だと思います。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれるようになり、人材や組織の文化の重要性が見直されるようになりましたが、一方で、実際にどうすればいいのか分からない方も多いのではないでしょうか。足立さんには、CIOやITリーダーの皆さんからさまざまな問い合わせがあると思いますが、まず、IT人材に関する動向の中で、注目すべき重要なポイントを幾つか挙げていただけますか。

足立:まずは、人材不足です。特に、テクノロジー人材について、「具体的にどのようなスキルが必要か」「優秀な人材を確保するためには雇用・給与制度をどう改善すればいいのか」など、人材が不足する中においても効果の高い人材施策が必要となっています。

 また、世界的なコロナ禍の影響で、ものすごく変化した動きも見られます。単純に人数が足りないだけではなく、コロナ禍では国境を閉鎖した地域もあり、人材の移動も止まりました。そういう状況下で、グローバル人材をどう雇用していけばいいのか、その解決に向けた新しいイノベーションも起きています。実際に、英国の企業が直接シンガポールの人材を雇用したり、米国や英国、スペイン、ブラジルなども含めて企業の所在地を問わず国境をまたいだ優秀な人材を早期に獲得したりする事例もかなり増えてきました。

 2つ目は、社内のIT人材の育成ですね。ガートナーでは、IT部門でなくユーザー部門に所属しながらテクノロジーを活用して業務を遂行する従業員を「ビジネステクノロジスト」と呼んでいます。IT担当職を含めて、そうしたテクノロジー人材をどう育てて活躍してもらうかも重要です。

 3つ目は、内製化です。日本企業の8割がシステムを外注していると言われますが、もっと社内のリソースを活用したいという話は多いですね。

長谷島:コロナ禍で人の移動が難しくなり、リモートをベースにしながらも、積極的にグローバルな人材を活用する動きも面白いですね。先ほど英国の事例を挙げていただきましたが、日本企業の動向はいかがでしょうか。

足立:日本は閉鎖的な企業が多いとも言われるので、それほど関心がないのかもしれないと思っていました。ただ、国内企業のIT部門の意思決定権者を対象にしたアンケート調査によると、2割以上の回答者が、海外の技術者を直接雇用する、あるいは関心があるとの結果が出ています。日本企業も国境を越えた人材確保の流れに向かっているということでしょう。

長谷島:グローバルソーシングについては、日本は海外に後れを取っていると思われがちですが、決してそんなことはないということですね。

長谷島眞時氏
ガートナージャパン エグゼクティブ プログラム グループ バイスプレジデント エグゼクティブパートナー
1976年ソニー入社。Sony Electronicsで約10年にわたり米国や英国の事業を担当し、2008年6月ソニー 業務執行役員シニアバイスプレジデントに就任し、同社のIT戦略を指揮した。2012年2月の退任後、2012年3月より現職。この連載では元ユーザー企業のCIOで現在は企業のCIOに対してアドバイスしている立場としてITアナリストに鋭く切り込む。

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