富士通は12月21日、同社のこれまでのクラウド事業に対する取り組みと現状を報告する説明会を行った。合わせて、同日付けでクラウドシステム専門組織として、「クラウドアーキテクト室」および「クラウド実装・検証センター」を設置したと発表した。
同社では、2009年4月にクラウドサービスへの取り組み、10月には企業内クラウドへの取り組みを発表。今年を「クラウド元年」と位置づけて、ビジネスを本格化してきた。2015年度には、クラウド関連の売上高で3000億円、利益率で8〜10%を目指している。
富士通でサービスビジネス本部長、常任理事を務める阿部孝明氏は、「クラウドをキーとした商談案件は、大手企業を中心として800件を超えている。そのうちクラウドサービスは全体の83%を占め、企業内クラウドの構築案件は17%に留まっている。だが、企業内クラウドは、今後増加すると見ている。また、クラウドサービスのうち、共通基盤での利用が84%、個別ホスティングでの活用が16%となっている。もともとクラウドに対しては、経営者の意識がコスト効率化を目的としたものであったこともあり、既存システムのサーバ集約、仮想化商談が64%を占めているが、最近では基盤共通化や開発、ディザスタリカバリ、新規事業創出といった環境での利用が増加している」と、クラウドビジネスの現状を説明する。今年4月の時点ではクラウドの用途を検討中としていた商談が6割以上あったが、今ではそれが10%以下になっており、用途が明確化している点も特徴という。
さらに、ユーザー企業はクラウド導入にあたり、セキュリティ、サービス品質、他システムとの連携、ベンダーのサービス継続性に対して懸念を持っていること、また、ユーザーはセキュリティ、品質、データの保全性などを考慮し、国内ITベンダーに相談したいと考えているといった市場調査の結果を示しながら、「富士通のクラウド時代の強みは総合力。他社はプロダクトや通信などに特化しており、そこに足りない部分を買収しているが、つなげるには時間がかかる。クラウド環境に関わるネットワーク、サーバ、ミドルウェアといったインフラからアプリケーションまでを提供でき、レガシーシステムからオープンシステムへのマイグレーションへの豊富な実績、システムの長期利用に対する改修および更新への対応力といった総合力がある。セキュリティや品質を重視し、一気通貫型でサービス基盤を提供できるベンダーは富士通しかいない」とした。
富士通では、2009年7月から、社内外において、37件のトライアルプロジェクトを実施しており、運用性、保守性の検証、ボトルネックの検証、新ビジネス創成の検証などを行っている。
「パッケージであるPRONESを活用した検証や、宮崎、滋賀、北海道で行っている農業SaaSのほか、交通情報センシング、CAD、映像配信などにもトライアルが広がっている。センサを組み合わせることで、これまでは物理的にシステムが導入できなかった分野にも導入が図られるようになるだろう。医療分野や介護分野などにも応用していきたい」とする。
また、社内実践事例として、沼津開発センターにおけるクラウド活用についても説明。テスト環境構築時間は従来の6時間から10分に、開発者管理負担をゼロにするといった効果が出ているとしたほか、稼働率を可視化するようなツールの活用なども効果があるとした。
富士通では、クラウドを活用したミッションクリティカルシステムやデータ保全が重視されるような「バック系システムへのインテグレーション」、安価で、短期間での導入が図れ、操作性の高いシステム構築が求められる「フロント系システムへのインテグレーション」、センシングやRFIDおよびネットワークといった新技術を適用するような「広域系へのインテグレーション」という、3つの観点からシステムインテグレーションへの取り組みを行うほか、今後は日本品質のクラウドサービスについて、国内企業と連携する形でグローバル展開を図っていくとした。
一方、12月21日付けで設置したクラウドアーキテクト室は、テクノロジーサポートビジネスグループ内に置かれ、製造業、流通業といった全業種のフィールドSEから人員を選抜する。現場におけるSI技術、ノウハウを集約する部門と位置づけられる。また、クラウド実装・検証センターは、サービスプロダクトビジネスグループとして、これらの技術、ノウハウをインフラにポーティング。それらを部品の形で、現場に提供するという。
2つの組織は、ソフトウェアビジネスグループによる基盤技術、システムプロダクトビジネスグループによる先進技術のプロダクト、最先端技術を開発する研究所といった各事業部門と連携することになる。新たに設置した2つの組織を含めて、クラウドシステムの専任担当者は100人規模になるという。