業務プロセスに関して、企業は長年さまざまな問題を抱えてきた。例えば、業務プロセスのブラックボックス化がそうだ。ITシステムが複雑になるにつれ、業務がコードに埋もれてしまい、その現状が見えにくくなる。ビジネスとITの結びつきが強固になるにつれ、業務プロセスを改善することが、さらに難しくなっている。
また、現実の変化に対応できない硬直的なプロセスの増加という問題もある。「ビジネス環境の変化に対して、素早く業務改革を行って対応することが不可欠である」とはよく言われることだが、業務プロセス自体が硬直化してしまっている中で、ITを中心に業務改革を実行しようとしても、簡単にはいかないというジレンマを抱えている。
TQMからBPR、そしてBPMへ
BPMが注目されるずっと以前から、企業はこのような業務プロセスに関する課題に取り組んできた。代表的なのは、プロセス改善の視点で解決を目指すTQM(Total Quality Management)や、プロセス改革の視点でビジネスを再構築するBPR(Business Process Reengineering)だ。
1970年代、全社的な品質改善活動のTQC(Total Quality Control)を、日本ではボトムアップの「QCサークル活動」へと進化させた。この日本での取り組みを参考に、1980年代に米国は新たに「顧客満足」の考え方を取り入れ、あらゆる業界に適応するトップダウン型の品質マネジメントの方法論を完成させた。それが、TQMである。
一方「BPR」は、1980年代の米国産業界における行き過ぎた機能別分業の反省から生まれた概念だ。競争優位を生み出すために、組織や業務の流れ、プロセスを構造的に見直し、最も効率的なフローへと再構築する業務改革手法である。
TQMは既存の枠内において継続的・断片的改善を目指すのに対し、BPRは既存の構造や手続きを無視し、劇的かつ抜本的な変化を達成することを目的とする。そのため、閉そく的な習慣や硬直した組織を改革するためのITが不可欠だった。
そこで注目されたのがERPである。基幹業務の統合、リアルタイムなデータ管理、グローバルスタンダード、ベストプラクティスといった特性がBPRに強力な解決策をもたらした。
だが、ここで一つの不幸があった。本来は、「BPR」に主眼を置き、その目的達成に効果的と判断されれば「ERPの導入も可能である」と考えるべきところだったのだが、「パッケージ(ERP)を導入すればBPRが実現できる」という誤解が広まってしまったのだ。そのため、日本においてはERP導入後の度重なるアドオン開発や膨大な導入コストが仇となり、「BPRは失敗に終わった」と評価されてしまう一因となった。
では、BPRとBPMの違いは何なのだろうか。ひと言でいうと、BPRはITの力によって根底から一気に変えていく「ビッグバンアプローチ」であるのに対し、BPMはITと組み合わさることで、既存の業務プロセスを少しずつ、かつ繰り返し変えていく「継続的アプローチ」といえるだろう。また、BPMはトップダウンでもなくボトムアップだけでもない、「現場の視点」と「経営の戦略」の双方をうまく混合させる点も特徴的だ。
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改善的(TQM) |
改革的(BPR) |
継続的改善(BPM) |
変化の度合い |
漸進的 |
抜本的 |
漸進的 |
開始点は |
既存プロセスから |
白紙から |
既存プロセスから |
変化の頻度 |
1回/継続的 |
1回 |
継続的 |
要求時間 |
短期 |
長期 |
短期の繰り返し |
参画の仕方 |
トップダウン |
トップダウン |
ミドルアップダウン |
対象範囲 |
特定機能内で狭い |
機能を横断し広範 |
機能を横断し広範 |
リスク |
控えめ |
高い |
控えめ |
主要成功要因 |
統計的管理 |
IT |
IT+組織能力 |
変化の形態 |
文化 |
文化/組織 |
文化/組織 |