Airlight Energyはスイスに本拠を置く2007年設立の企業で、講演では同社が開発中の太陽光発電設備が紹介された。同社が開発しているのは発電素子ではなく、発電素子に光を集めるための集光装置。従来は鏡を使って正確に発電素子に光を集めるために大規模かつ精密な構造となっていたのを、大幅に簡略化できるというものだ。
ポイントは、重量がかさむガラス製のミラーを使わず、薄い反射フィルムを使っていることだ。表面にアルミ蒸着加工が施された極薄のプラスチックフィルムのようだが、これでは発電素子に焦点を結ぶための精密な形状維持ができない、というのが従来の発想だが、同社ではフィルムを風船のように空気圧で膨らませ、軽量のアルミ材のフレームで包むことで正確な形状を維持できるとしている。全体の重量も非常に軽量に仕上がるため、支持構造等も比較的簡単なもので済み、大幅なコストダウンに繋がる。また、工場で仕上がったユニットを現場に運んで設置するだけですぐに発電を開始できる、といった迅速な展開も可能になりそうだ。
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同社の太陽光発電モジュールの外観。ビニールハウスのようで材質的にもよく似ている。アルミフレームに支えられた奥側の膜面がアルミ蒸着の反射材となっており外側は透明のまま。全体がレンズ状断面になるように工夫され、形状保持は内部の空気圧による。きわめて軽量なので、太陽を追尾し続けるための動力消費もわずかだろう。
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太陽光発電モジュールの特徴。斬新なのはデザインと材質選定だが、製造にあたっては特別な技術は使われておらず、むしろ定評のある枯れた技術で製造可能だという。
もちろんこうした技術が紹介されるのは、開発にダッソー・システムズのソフトウェアが利用されているからで、構造設計から実際に焦点を維持できるかどうかのシミュレーションなど、幅広く同社の製品／技術が活用された結果生み出された成果だと言える。
ITのコモディティ化は何を意味するのか
今回のイベントでは、集まったのが既に同社製品を活用しているユーザーが中心だということも無関係ではないだろうが、自社の製品や技術を声高に訴えるのではなく、ダッソー・システムズの製品を活用しているユーザー企業がどのような成果を上げているかを紹介することに焦点が当たっていたと感じられた。Biomimicryの紹介もそうだが、同社製品を活用するデザイナーや設計者にとって刺激となるような情報を提供することをもって同社の製品をさらに深く活用していくためのモチベーションとする、といったところだろうか。
一般的なIT企業の場合、中核的な製品が比較的汎用性の高い一般的な事務処理をメインとしているためか、自社製品の優位性を声高にアピールする例が目立つが、ダッソー・システムズの場合は、製造業や広く“モノ作り”に携わるプロフェッショナルユーザーを対象としていることもあり、自社が前面に出るよりもむしろ「裏方としての誇り」をもってユーザーを立てているようだ。
もちろん製品自体が業種業界に特化したインダストリーソリューションであることも大きいとは思うが、こうした立ち位置はITのコモディティ化が進行したらどうなるか、を教えてくれるような気もする。
IT業界ではコモディティ化をごく単純に「製品の低価格化」と捉えているような感もあるが、むしろ本当に成熟してコモディティ化したITは、これまで以上に広範な分野で活用されるようになりつつ、同時に人目には触れない裏方としての役割を担うようになるのだろう。3D関連の技術では世界でもトップクラスの技術力を誇るダッソー・システムズが自社のプライベートイベントでその技術力をさほどアピールしない、というあり方は、本当に進化したITはむしろ地味な存在として見える、と言うことを教えているようにも思われる。
