三国大洋のスクラップブック

「ネオナチをつかって移民労働者を監視」--欧州で強まるアマゾンへの風当たり - (page 3)

三国大洋

2013-02-18 12:14


FTのストーリーには救いがあったが

 FTの報道との比較でいうと、アマゾン配送センターの現場労働者が「簡単にクビになってしまう」「1日(8時間の勤務時間中)に17キロも歩かせられることもある」「巨大なマシンのような配送センターのなかで、自分が小さな歯車になったよう」「まるで奴隷キャンプのよう」などとするコメントなどから、英・独いずれの拠点もかなり厳しい環境であることは共通する点。また、労働者の雇用や管理に関わる「汚れ仕事」を下請けの派遣会社が請け負っている点も同じだ。

 その一方で、英の場合は炭鉱の仕事がなくなって衰退が続く田舎町で「週54ポンドの失業手当しかもらえなかったのが、アマゾン配送センターに務めてから週220ドル稼げるようになった」という若者の話や、あるいは「仕事をしてわずかなりとも金を稼いでいると思うと、誇りが取り戻せる」という年配者の話などもあって、わずかなりとも救いが感じられる。

 また、きつい仕事も「あくまで職場での話」という救いもある。

 それに対して、ドイツの移民労働者の場合は、勝手のわからない異国の地で宿舎にもどっても気の休まる暇がない。「ネオナチと覚しき警備員から『ここでは俺たちが警察だ』と脅された」「不在中に勝手に家捜しされたり、寝ている間やシャワーの最中でも警備員の連中に勝手に部屋に入ってこられる」など、NYTの記事を読むとまったく救いがないことがわかる。

ナチ、移民、強制労働——

 一年前に大いに話題になっていたアップルの中国(フォクスコン)工場労働者の問題も想起させられる(関連記事:終わりを告げる安直なグローバル化の時代)。

 しかし、問題発生地と、それぞれの会社が商売する市場との距離の違い——「海の向こうでの出来事」か、それとも「自国内でのこと」か——など、大きな違いがある点はあらためていうまでもない。また、アップルの場合はCEOのティム・クックが素早い反応で炎上拡大を食い止めたのは周知の通りだ(関連記事:アップルのティム・クックCEOが快進撃)。

 「ナチ」「移民」「強制労働」とくれば、もうドイツ人の「イヤツボ」を押したも同然と私などには感じられるが、今後ドイツの消費者がどんな反応をみせるのか、あるいは米国のユダヤ人から何らかの声があがったりするのか。そして、アマゾンCEOのジェフ・ベゾスが事態の解決にむけてどんな手を打ってくるのか。

 さらに、オバマ大統領は先の一般教書演説のなかで、2期目のアジェンダのひとつとして、EUとの自由貿易協定締結を掲げていた。経営側からみて比較的簡単に雇用・解雇が可能かどうかという「雇用の弾力性」については、米国と欧州主要国との間で大きな開きがある。この点については、1月下旬に米国のタイヤメーカー、グッドイヤーが仏北部にある工場閉鎖を決定、「毎年8000万ドルの赤字を5年も出し続けていたが、労働組合との協議が難航した末の決断」といったニュースが出ていたばかり

 関税や法人税の問題とあわせて、欧州市場で活動する米国企業の雇用問題が、US-EU間の交渉のなかでどう取り扱われるにも注目が集まるだろう。

(文中敬称略)

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