三国大洋のスクラップブック

米「中古iPhoneブーム」の光と影 - (page 2)

三国大洋

2013-06-07 20:25

勢いづくiPhoneのブラックマーケット--世界的なネットワークに

 先述したBloomberg記事の中には、Gazelleから卸売業者に流れるiPhoneのうち、半分程度が香港に拠点を置く再販業者の手に渡るという話が出ている(註5)が、こうした中古iPhone(やiPad)の「仕入れ経路」がすべて合法的なものというわけでもない。

 2012年11月に中国の組み立て工場から空輸されてきたiPadがニューヨークのケネディ空港でコンテナごと盗まれたという事件があり、一部で話題になっていたことをご記憶の方もいるかもしれない。ブラックマーケットでのiOS端末の人気の高さを示すエピソードの1つと言えようが、決してこれが例外的な出来事というわけでもないらしい(150万ドルという被害金額の大きさは別として)。

 米国では2年ほど前から、特にiPhoneの窃盗が深刻な問題になっているそうで、米国時間6月5日にはついにニューヨーク州の検事総長やサンフランシスコ市の検事らが協力し、Apple、Google、Samsung、Microsoftの4社を集めて、きちんとした盗難防止策を講じるよう強く求めることになった、というニュースが報じられていた(註6)。

 このHuffingtonPostの記事によると、2012年には全米で約160万件ものスマートフォン窃盗事件があり、また大都市圏で発生した強盗の約40%が携帯端末を狙ったものだった、とするデータも出ている(註7)。また5月の初めに出ていたThe NewYork Times(NYTimes)の記事には、昨年サンフランシスコで発生した強盗の半数近くが携帯電話端末を狙ったもので前年の36%から2桁増加、またワシントンDCでは携帯電話端末を狙った強盗事件が全体の42%に達して過去最高に。さらにニューヨークでも、iOS端末を狙った強盗事件が全犯罪(強盗以外のものも含む)の14%になった、などという話が出ている(註8)

 警察や検察の関係者にしてみれば、折からの強制予算削減などもあり、「それでなくても人手が足りないときに、お前らいい加減にしろ(抜本的な防止策を講じろ)」といったところかもしれない。

 具体的な施策については、すでに今年初めから稼働している盗難端末のデータベース--Verizon Wireless、AT&T、Sprint、T-Mobileが参加。盗難の届け出があった端末の個体番号を登録しておいて、SIMカード交換後(新たなユーザーが)他社のサービスでアクティベーションしようとしてもできないようにする、といったもの。

 すでに米国とメキシコがこのデータベース情報を共有--だけでは不十分で、海外に流出する端末には効果がないことから、当局側では、いったん盗難の届け出があった端末は(データを消そうがOSを入れ直そうが、あるいはSIMを交換しようが)再び使えないようにする「キルスイッチ」(Kill Switch)の実装を端末メーカー側に要求しているという(註9)。

 なお、このNYTimes記事の冒頭にはiPhoneを3回も盗まれたという女性の話(と写真)が出ているが、これなどまだマシな方--命をとられなかっただけよかった、ということらしい。Huffington Postが3月上旬に掲載していた記事には、iPhone強盗に銃で撃たれて亡くなった若者の話が出ている。「『Appleの白くてよく目立つヘッドフォンは、夜間はしてはいけない』と弟にはあれほど忠告しておいたのに……」という被害者の姉の談話が痛ましい(註10)。

 このHuffingtonPost--同サイトには「iTHEFT」と題した特集コーナーもすでにある--記事には、こうした不正な入手経路からの製品が出回るブラックマーケットが世界全体で300億ドル規模に達しているというLookout(モバイルセキュリティ製品ベンダー)のデータが紹介されていたり、米国で盗まれた携帯電話端末がメキシコのドラッグなどを扱う犯罪組織に渡り、誘拐の身代金要求に使われていたり、あるいはこのところのシリア内戦に関連してニュースで名前を見聞きすることも多いHezbollah(レバノンのイスラム教シーア派武装組織、米国では「テロリストグループ」の扱いらしい)のある関係者が、活動資金捻出のために盗難品の転売・輸出を企てて、おとり捜査官につかまった、などという話も出ている(註11)。

 むろん、こうしたさまざまな問題の原因がAppleただ1社にあるというわけでもないが、一方で長らくiPhoneが「高嶺の花」とされていたインド--基本的に全額前払いが原則だったことなどが理由--で、今年になってAppleが金利なしの分割均等払いという売り方を導入したところ、販売台数が一気に4倍にもなった、というニュースも最近になって報じられていた(註12)。

 さまざまな市場で特有の事情があり、全体としてみると簡単には解決できない問題かもしれないが、米国の司法・捜査当局が求めている防止策以外にも、まだいろいろと講じられる施策がありそうにも思える。

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