2010年以降期待が集まるテラヘルツ波
もう1つの「テラヘルツ技術の利用」については、そもそも「テラヘルツ技術」そのものについて説明を要するであろう(電子情報通信学会誌Vol.97 [最新テラヘルツ技術と実用化に向けた取り組み特集]2014-11を参照させていただいた)。
ヘルツ(Hz)とは周波数の単位であり、一秒間に何サイクルの周期を持つかということを意味している。説明を要しないとは思うが、例えば東日本における家庭用電源の周波数が50Hzであることは良く知られている(西日本は60Hz。このため、東京電力の余剰電力を関西電力に供給できないという話はよく耳にすることだろう)。
米国ではテラヘルツ波によって「スタートレックの世界が現実になる」とする記事も出ている
また「テラ」とは10の12乗であり、一秒間に10の12乗回周期が変わる電磁波をテラヘルツ波と呼ぶ。
このテラヘルツ波が注目を集めている理由が2つある。1つは電波と光の両方の特徴を兼ね備えているということである。テラヘルツ波より周波数が低い(波長が長い)電磁波は電波(ミリ波)としての利用が進んでおり、有名なところでは自動車の自動ブレーキシステムに使われるミリ波レーダがある。
また、これより周波数が高いと、赤外線、可視光、X線などとなり、これもさまざまな用途に使われている。
もう1つの特徴が、このテラヘルツ波はこれまで電磁波の発生やその検出に関する技術開発が進んでおらず、使いにくい(使われにくい)電磁波であったことである。これが2010年以降、技術の発達により高出力で発生させ高感度で検出できるようになったため、注目されているのである。
さて、前置きが長くなったが、このテラヘルツ波を使うことでより高速な通信が可能になるというのが、直接的なICT分野におけるテラヘルツ技術の利用である(一般に搬送波の周波数が高い方がデータの転送速度も速くなる)。しかし、ここでは医薬品の開発や医療の診断技術への応用が期待されていることをご紹介したい。
近年の新薬の開発には、化学合成や分析が比較的容易な低分子ではなく、高分子であるアミノ酸やたんぱく質、さらにはそれらの高分子が水素結合したアミノ酸結晶や分子クラスタなどの解析が欠かせない。そのためには、その構造を破壊することなくイメージング(画像解析)できなくてはならないのだが、テラヘルツ波を使うことでそれが可能になるのである。