「マイクロソフトのAI技術は世界最高水準」と強調
だが、Cognitive Servicesと同様のサービスは、提供形態に違いはあるものの、Google、Facebook、Amazon、IBMといった競合他社も注力している。果たしてマイクロソフトのサービスの技術水準は、競合他社と比べてどうなのか。この点について榊原氏は次のように答えた。
「Cognitive Servicesの5つの領域でいうと、視覚における画像認識および音声認識については、最近行われた公的なベンチマークにおいて、いずれも当社の技術が世界最高の認識率であるとの結果が出ている。画像認識ではGoogleおよびFacebook、音声認識ではIBMと激しくトップ争いを繰り広げているが、現時点では当社が上回っている。また、言語、知識、検索の領域においても、当社はいずれもトップ争いに加わっている。総合すると、当社のAI技術が世界最高水準であると自負している」(図2)
図2:動画の内容を文章にもできる画像認識技術(出典:日本マイクロソフトの資料)
とはいえ、競合他社と比べて、マイクロソフトのAI技術はあまり目立たないと見る向きも少なくない。この点については、榊原氏も冒頭の発言にあるように強い問題意識を持っており、「さらなる認知度向上に努めたい」と強調した。
では、Cognitive Servicesのさらなる普及に向けて、マイクロソフトは今後どのように取り組んでいくのか。もっといえば、同社ならではのAIをどのようにアピールしていくのか。これに対し、榊原氏は次のように答えた。
「一言でいえば“AIの民主化”を目指したい。当社のサービスによって、これまで専門家の手に委ねられてきたAIのパワーを、誰もが手軽に活用していただけるようにしたい。これこそが、長年にわたってパーソナルコンピューティングの世界に携わってきた当社ならではのAIの活用法だと考えている」
榊原氏によると、マイクロソフトは今後、AI技術をオフィスアプリケーションである「Office 365」や「Dynamics 365」などにも適用していく計画だ。とりわけOffice 365は、圧倒的なシェアを占めてきた従来の「Office」のクラウドサービスとして、ここにきて急速に普及しつつある。このOfficeがAI技術で“賢く”なるだけでも“AIの民主化”は大きく進展しそうだ。
最後に、マイクロソフトの研究開発に対する榊原氏の印象を聞いた。というのは、同氏は30年間、日本IBMに在籍してITアーキテクトとしての腕を磨き、今年1月に日本マイクロソフトのCTOに就任した経歴を持つからだ。そんな同氏の目にはマイクロソフトの研究開発がどのように映っているのか。
「研究開発レベルの高さもさることながら、入ってみて驚いたのは技術者たちの発想の着眼点が実にユニークなことだ。例えば、このほど商品化されたホログラフィックコンピュータのHoloLensなどはその最たるものだ。その根底には、(米Microsoft CEOの)Satya Nadellaの技術の洞察力とリーダーシップが効果を発揮しているのだと思う。技術的な視点で事業戦略が練り上げられていると強く感じる。AI技術もその方向にある。入社して10カ月経ったが、とても楽しく仕事をさせてもらっている」
その楽しい様子が取材でもひしひしと伝わってきた。榊原氏は今後、マイクロソフトのAI技術の“伝道師役”を担う。本稿ではCognitive Servicesを中心に紹介したが、Azure Machine LearningやCognitive Toolkitでも「世界最高水準の技術」について熱っぽく語っていたことを添えておく。